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Drago di Isolamento; Ex

01. リーザス村の少女



その人を初めて見た時、私は時が止まるのを感じた。
馬鹿みたいな顔をしていたんだろうな、と思う。だって、あんなに綺麗な人を見たのは初めてのことだったから。

出会ったのは、村から東にある塔の最上階。
兄さんの為に祈りを捧げていて、物音に振り向いた視線の先に、その人は居た。
女神リーザスが、そこに現れたのかと思ったほどだ。
白い肌、細身の体躯。なのに、弱そうな感じには全然見えず、それどころかスッと伸びた背筋で佇む姿は凛としていて――男の人(だよね?)に、こういうのも何だけど、すごく綺麗だった。
まるで、一枚の絵を――それも荘厳な宗教画――を見ているような気持ちになり、思わず祈りたくなるような……そんな錯覚が、した。

でも、隣に居たヤンガスが視界に入っちゃたから、その幻も直ぐに消えてしまったんだけど。
おまけに、私、驚いたのと兄さんが死んでしまったことで気が動転してて。
てっきり、彼らが兄さんを殺した犯人なのだと思い込んじゃって……いきなり攻撃を仕掛けてしまったのよね。
それも、全力の魔法攻撃で。
いま思えば、私って馬鹿だったなぁ、って笑える――……ううん。本当は、その……赤面しちゃうんだけど、ね……。

けれど、その人は許してくれた。
一歩間違えれば、それこそ大惨事になっていたかもしれないというのに。
大人しい人なのか、あまり自分から進んで多くを語ることは無かったけれど。(だって、ほとんどはヤンガスが喋ってたし。)
しかし、口数が少ないその人が紡ぐ言葉は一つ一つが重く、静かに心に響いた。
ごめんなさい、と項垂れる私に、その人は首を振って。

「気持ちは、分かる。……謝ることじゃ……ない。」
それだけを言うなり、ほんのりと――静かに微笑みかけてくれた。
微笑、といっていいものかどうか迷うくらい、微かなものだったんだけど、それは確かに微笑んでいた。見間違いじゃない。これは、確信して言える。
だって、私の心が凄く温かくなったから。

その後、何だか色々なことがあったけど、私は彼らと目的が似ていたので、旅の仲間に入れてもらって今に至る。

その人は全くの無表情で、自分からは何も話さない、寡黙な人だった。
初めはそれが酷く怖かったけど、それも最初だけ。
私が重いものを持っていたら静かに手を貸してくれたし、時にはそのまま荷物を持ってくれたりした。
手を貸すって言っても、それはちょっとじゃなく、ほとんどの荷物を持ってくれたんだけど。
ありがとう、ってお礼を言うと、その人は肩越しから少しだけ視線を向けて首を振るのみ。
「気にするな。」とでも言うように。
その眼差しは、柔らかで、優しくて。
モンスターと遭遇し、危なくなりかけた時も直ぐに気づいて駆けつけてくれた。
自分の方も手一杯だった筈なのに、それを一瞬で片付けて、此方へ来てくれたのだ。

これは後でヤンガスから聞いたことなんだけど、あの人は背中に大きな傷を受けてしまったらしい。私のせいで、集中できなかったようなのだ。
なのに、そんな素振りは一切見せず、気丈に振る舞い……。

どこまでも完璧に、格好いい人だった。
いつも静かに、皆を護ってくれている人。
何も言わずに、ただ優しく守ってくれている人。

あんまりにも落ち着いているから年上なのかと思っていたら、実はほとんど同い年なのだと聞いてビックリした。ちなみに、聞いたのは、その人から――じゃ、なくて。
彼が仕えているという化け物……じゃなかった、トロデ王から。

だって、当の本人とは、なかなか気軽に話せないでいたもの。
何と言うか、こう……”孤高の人!”ってオーラが見えるくらいに、その人の姿は気高く荘厳に感じられて、ちょっと尻込みしてしまうのよね。

でも、人って凄いと思う。
だって今は、私、その人に話しかけることが出来るようになってるもの。

その人は、……ううん、もう名前で呼んじゃおう!
エイトは黙ってることが多いけど、話を聞いてないわけじゃない。
相槌代わりに、時々僅かに頷いてくれるし、たまにだけど、短い返事をしてくれたりもする。
まあ、返事っていっても、「そうか……」とか「ああ……」とかなんだけど、ね。

でも、言葉では伝わらないこともあると思うのよ。
私はエイトに接してみて、それを深く実感した。

うん。
無口で無表情で、一目見ると冷たい印象しか感じない――けど。

でも本当は、優しくて暖かい人だと思うな、私は。
私、この人の仲間になれて良かった。

……いけない。
また「この人」って言っちゃってる。名前、名前。名前で呼ばなきゃ。

……でも名前を呼ぶの、実は結構どきどきするんだよ……ね。
だって「エイト」って名前を呼ぶ度に、あのちょっと低めの、それでもって甘い声が返って来るんだもん!
「……どうした?」とか、運のいい時なんかは、それの最後に名前が付くのよ!?
「……どうした、ゼシカ?」よ!?

きゃ~~っ!
あはは。私ってば、かなり不純?
……。ま、まあ……いいのよこれくらいは。だって、もっと不純な奴が仲間に居るんだから。
え? ああ、そいつは誰かって?
……。そいつなら、もう直ぐ買い物から帰ってくると思うけど。
後から仲間になったくせに、妙にエイトに馴れ馴れしくするのよね。
今日だって、エイトを強引に連れて買い物に行っちゃったし。二人きりで!

え? 名前? 
あれ、エイトって言わなかったっけ? 
……ああ。その馴れ馴れしい奴の方の名前ね。気になるんだったら、そいつが帰って来るまで待ってみる?
ついでに……あ、ついでじゃないか。それと同時に、女神様も拝めるかもよ?
え? あははは。女神ってのは、エイトのことよ。
いつの間にかアイツが勝手につけた名詞なんだけど、これがまた結構その通りなのよねー。
どうする? 帰るの?
それとも――待ってみる? 
逢って損はしないわよ。
これは特上の、お・墨・つ・き。

とある少女のお墨付き