Drago di Isolamento; Ex
03. ある村娘
その方を初めて見たのは、ある町の墓場の前でした。
実に奇妙な出会いの光景かと思われるでしょうが、否定は致しません。墓場の前に無言で佇む者の話など、それだけで気味が悪く思われるでしょうから。
けれど、その方は違いました。
昏い中で、唯一人。
彼の人だけが光を纏い、その姿はとても荘厳で、誰もが目を奪われたのです。勿論、私もその中の一人ですが。
冷たい雰囲気と、氷のように冴え渡る美貌。
慄然と、気高さを纏ったその姿は、恐らく神鳥でさえ敵わないのではないでしょうか。
――私はその日、ある故人の墓参りに来ていました。
そして手向けの花を供え、祈りを終えてその場から少し離れたのと同時に、その方が墓に来たのです。
最初、誰か知人の死を悼むために参られたのかと思っていました。
現にその方は、一つの墓石の前に片膝を付いたのですから。
それは今にも祈りをするような仕草に見えました。
そんな時、通りがかったある人が、その方に声を掛けました。
私は離れたところにいたので、会話の内容は良く聞こえませんでしたが、それでも言葉の断片が何とか聞き取れました。
いつもは人の声などでざわめいた町ですが、その時だけは少し静かだったのが幸いしました。
勿論、その静寂を呼んだのは、その方なのですけれど。
赤い装束を身に纏った方との話を聞いたところによると、驚いたことに、その方は全く見知らぬものの為に祈ろうとしていたのです。
そして、何も供えが無いのを見て不憫に思ったらしく、持っていた花を捧げて祈ったのです。
私は、それを聞いて驚きと、胸が高鳴るのを感じました。実際、眩暈がしたほどです。
他人の為に、祈る行為が。
他人の為に、捧げる行為が。
あの時ほど眩しく映り、心が震えたのは、後にも先にも、これきりでしょう。
あの方が去った後、町はあの方の噂で持ちきりでした。
何処もかしこも、あの方の話をするものばかりで――ああ、私もその中に居ました。
皆は、あの方の正体について色々憶測を並べ上げたりしました。
どこかの貴族、どこかの君主、いや神の御使いだ――と。
そんなことを真剣に語るものまでいたほどです。
どれもが本当にただの推測、憶測でしょう。けれど、そのどれもが当て嵌まるような気もしてならないのです。
一体、どれが真実なのでしょうね?
あれ以来、私はあの方を見かけませんが、他のものに聞くと、時折この町に来るそうです。
私は自分の運の無さに少し嘆きましたが、それでもあの方が夢の存在でないこと知り、少し満足しています。
今、あの方は何処で何をしているのでしょう?
あの方の、本当の正体は何なのでしょう?
名も知らぬ、美しい御方。
いつか再びお逢いできれば、私は是非とも名前を尋ねたいのですが……果たして、その時がやってくるのかどうか。
けれど、私は名が聞けなくともいいのです。
私の記憶の中では、あの方の姿、声が今も尚、そしてこれから一生、色褪せることの無いまま残るでしょうから。
――貴方は、彼の方のお名前をご存知でしょうか?
もし既存だとしたら……ええ、羨ましい限りです。