Nightmare×Knight
[1] 始まりはNightmare 1
気持ちとは裏腹に、想いが加速していく。自分ではもう止められない。
「……はぁ。」
町について早々、エイトは宿をとるなり一人、部屋に閉じこもった。
仲間には、気分が悪いのでしばらく一人にして欲しいと言ってある。
実際、気分が悪かった。……今も、悪い。
この異変は、ずっと前からのものだ。しかもそれは、戦闘にも幾らかの支障が出てしまっている程で、集中しているつもりなのに、些細な攻撃を食らっては仲間に回復してもらうことが多くなっている。
何が原因なのか、と考えると一つのことが頭に浮かんだ。
むしろ、それしか答えが出てこなくて。
そんな、まさか……と、何回も考え直した。
考えて、考えて、考えて。
――けれど、行き着いてしまった一つの答え。
認めたくない、でもどうしようもない想い。
「まさか、……こんな――……っ」
天井を仰いだついでに、大きな溜息が零れた。
それから、途方に暮れる。
考えなければ良かった、原因を突き止めなければ良かったと考えるも、もう遅い。手遅れ。
感情が”それ”に変化してしまった。
好意が――恋愛に。
これが女性――例えば、ミーティアやゼシカなどならまだ救いようもあるのだが、対象が男、それも相手がククールだという事実に愕然とした。
これまで、幾度も迫られる度に顔を顰めて突っぱねてきたというのに、どうして今になって発展してしまったのか。
勘違いであれば良いのだが、そうもいかない。
自分のことなのに、自制が効かない。――むしろ、拒絶していた。
誤魔化すな、と窘めているのは規律に真面目な兵士長の自分。
認めろよ、と諭しているのは感情に素直だった子供の自分。
「――違う。これは……」
両手で顔を覆って、呻くように呟く。
「恋なんかじゃ、ない。」
何度も、違う、と否定の言葉を口にする。
違う。違うから。違うんだ。違う、違う、違う。
認めたくない。認められない。
こんな感情なんか、要らない。
どうせ後悔するんだ。人に深く寄り添って、気持ちを預けた後に裏切られるとどんなに辛いことか。
「……もう、あんな思いはイヤだ。」
そう小さく呟いて、身を守るように自分の両肩を抱いた。こんな事で震えが止まることはないと分かっているけれど、それでも縋るものが欲しかった。
傷は一つでたくさんだ。――その一つが多数あるからこそ、余計に。
「一人になるのは……もう、イヤだ。」
痛い。苦しい。寂しい。辛い。
嫌なことばかりを思い出すから、この気持ちは閉じ込めよう。そうだ、心のずっと奥にしまいこんで、鍵を掛けて、気づかない振りをしよう。
どうせ碌なことにならないんだ。……碌なことにならなかったじゃないか。
だから、表に出したりなんかしない。絶対に。
「認めるものか……認めちゃ、駄目だ。」
吐き捨て、身を丸め、強引に眠りの海に意識を委ねる。
とりあえず眠ってしまえ。そうすれば、今夜はもう悩むことは無いだろう。