Nightmare×Knight
[3] Stun Distance 3
添いたくて、副いたくて。――何も無いのに、手を伸ばす。
「……はぁ、……」
薄闇の中、その日ククールはベッドの上で何度目かの溜息を吐いた。
落ち着かない。
違う。
――寝付けない。
いつもは傍に、エイトが居た。触れる度に体を強張らせるのを見るのが辛かったが、それでも強引に押し開いて抱き締めた相手の温もりが愛しくて、それで静かに寝付けていたのかと考える。
今はそれも無くなり、これで眠らせてやれると思っているのに。
なのに。
「――俺はこんな時にまで、あいつを欲しがるのか……?」
温もりが無いせいか、妙に寒く感じる。
これではしばらく眠れそうに無い。重い溜息を吐いて、そのまま上体を起こした。
壁に背を預け、そうして何も無い腕の中を見る。
浮かぶ影。
幻影のように、形が浮かぶ。
「……はっ。……馬鹿、だよな俺は。何、見てんだか。」
ククールは自身を嘲笑いながらも、それでも強く思い出すのは抱いた感触。
望んだのとは違う形で叶えてしまった貪欲なものだが、それでもあれは酷く甘い夢のようだった。
思う。
シナモンの混じった柔らかな黒茶の髪を。
「エイト。」
思う。
白く滑らかな肌が、何かを求めて絡み付いてくるのを。
「……エイト。」
想う。
上げる声は悲しい筈なのに、どうしようもなく甘いもので。
「――…エイト…エイト……っ」
――どうしても断ち切れない。
幻想が、揺蕩いながら浮かぶ。
声が。表情が。何もかもが。
それらが全て、愛しくて――手放せなくて。
『ククール』
「――っ!」
反射的に浮かんだ光景に、ククールはそのまま両肩を抱いて呻いた。
馬鹿か、俺は。
馬鹿か馬鹿か馬鹿か馬鹿か馬鹿か馬鹿か。
何をまだ考えているんだ。
何をまだしようとしている。
気づいていなかったくせに。愛されているなどと。
気づこうとしなかったくせに。愛されていたなどと。
――間違えるな。
何を、今更――あんなことをしておいて、よくもそんな事が言えるものだ。散々酷いことをしておいて、手離しがたくなったなんて。
――呆れる。
あんなことをしておいて、ひたすらに痛めつけておいて、また同じことを繰り返そうとしているなんて。
「……エイト……っ……エイト、俺は」
意味もなく名前を呼んで、一人その両肩を抱き締める。
どうしたらいいのか、自分でも分からない。静かな中で、独りきり。
いつの間にか、一緒に眠るのが癖になってしまっていたなんて――そんなこと、笑える悪夢でしかないし救いようも無い。