Nightmare×Knight
[4] Whiteout Road 9
幸せの涙。
「……夢じゃ、ない……よな?」
長い口付けの後、ぽつりとエイトが呟いた。
「……夢なんかじゃ、ねぇよ。」
それを聞いたククールが苦笑しながら答え、エイトを見つめる。
「夢の方が……良かった、か?」
無理矢理に笑顔を作って言ってみせたが、きっと失敗してるだろうと自覚する。
わざと自嘲してみせたが、本当のことを言えばそんなことは思って欲しくなかった。
けれどそんなものは杞憂に終わってくれる。
「そんな……そんなこと、ない! 夢よりも、こうやって現実の方が……夢なんかより、も……っ。」
後の言葉は、エイトの泣き声で掻き消えてしまったが、それまでで充分だった。
バカなことを聞いたな、と思う。
「ああ。信じてる。その言葉、信じてるから……だから――泣くなよ。」
泣かしたくないんだよ。
エイトをぎゅっと抱きしめて、そしてその背をあやすように撫でてやる。
「なぁ、泣くなよエイト。せめて、笑ってて欲しいんだ、お前には。」
すると、エイトが首を小さく振って答えた。
「だって……仕方、ないじゃ、ないか……勝手に泣けてくるんだから!」
そしてそこで顔を上げて、俺を睨むようにして言い継げたのだ。こんなことを。
「幸せ過ぎて泣いてしまうんだよ! どうやっても!」
俺は、自分の強張った笑みが溶けていくのを感じた。
いや実際、滅茶苦茶に緩んだ顔をしていると思う。泣きながら告白されたそれは、俺を調子に乗らせる気か?というくらい幸せなもので。
「馬っ鹿。……お前、ほんと、馬鹿。」
「なっ……馬鹿って言うな――っ」
抗議の声を上げようとするエイトの唇を奪い、俺は目で笑って言ってやる。
「俺の方こそ、幸せすぎて……泣ける。」
「クク、……? 何で、泣い、て……」
泣いてる?
俺が?
……ああ。お前がそう言うなら泣いてるんだろな、俺は。
「……お前と同じ気持ちだから、かな。」
俺が泣いている理由を告げてやると、エイトが大きい目を更に大きくして俺を見つめた。
瞬きし、喘ぐように口を開けては閉じ、そして困惑に似た表情をして問い掛けてきた。
「な、……何で――……」
そんな馬鹿な、というような声音に、俺は参ったな、という顔をしてみせた。
おいおい、この期に及んでその反応は無いだろ?
いや、まあ……そう考えてしまうのも、仕方ないかもしれないが、な。
「言っただろ? ……お前と同じだからって。」
「それって……――でも、……」
口篭り、上目遣いに俺を見上げてくる。
答えは同じだって言ってるだろ?
同じ気持ちだって、さ。
柔らかく微笑して、そして再度、抱きしめて。
同じ言葉を、口にする。
「”幸せ過ぎて泣いてしまう”んだよ、俺も。」
それから、今度は正面から目を合わせて。
「今更、こんなこと言える立場じゃないけどな……でも、言わせてくれ。」
はっきりと、刻み込むように告げる。
「愛してる。」
「……っ!」
エイトが大きく息を飲み、そしてぐしゃりと顔を歪ませた。
その瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「……エイト――」
不安になった俺が眉を寄せて、エイトの頬にそっと触れるとその上からエイトが手を重ねてきて呟いた。
「……、も、……」
「うん?」
「俺もっ……愛してる……――っ!」
叫ぶような告白と共に、飛びつくように俺の胸にしがみ付いたエイトを見ながら、そこでようやく――本当に、不安とオサラバできたのだった。