Nightmare×Knight
[5] Goodness Happines 2
暗夜明けて。
ある日の午後。
エイトは、ククールとゼシカと共に、買出しに出掛けていた。
必要な道具を買い揃え、装備も整え直し、そうして他の仲間が待つ町へ戻る。
人気が無く広い道であったので、横並びに歩く。ゼシカとククールの間にエイトがいる構図だ。
「挟み撃ち」という言葉を脳裏に浮かべたのは、さて誰だろう。
ちなみにヤンガスはというと、トロデ王が持病の癪が何だのと言って駄々をこねたので、姫(馬)と共に留守番役となった。
「あー……疲れた。エーイト、帰ったら足揉んでー、足ー。」
「なにを言ってるんですか。いいから、とっとと歩いて下さい。このままだと野宿になりますよ。」
「冷たいねぇ……雪の中、お互いに寄り添って暖めあった仲だってのに。」
「……今ならギガブレイクになりますけど、構いませんか?」
「……構わなくない。ハイハイ、歩きます。歩かせていただきますー。」
手加減があるだろうとはいえど、それは危険過ぎる――そう判断したククールが両手を上げて降参のポーズをとった。
エイトは呆れたような顔をしてフンと鼻を鳴らし、わざとらしく肩を竦めた。
けれども、その表情は非常に温かなものでいて。
彼らのやりとりを眺めていたゼシカはクスクスと笑った。
悔しいけれど、二人が放つ雰囲気が柔らかくて気が休まるものだから、仕方ない。
「……もう。そんな幸せそうに笑わないでよね。」
「……ゼシカ? 何か言いました?」
「んーん。何でもない。ほんと、仲良いわよね、あなたたちは!……って、思ってたの。」
「――はっ。何を今更。」
エイトと穏やかに会話していたその時、二人の間にククールが割って入ってきた。
それも、身体ごと。ぐいぐいと。
「俺とエイトは、それはそれはもう、誰もが羨む程に熱々な仲なんだぜ? 毎夜毎夜が千一夜さながらに、いやそれ以上にこう、情熱的にだな――」
「……。」
「……。」
二人が黙り込んだが、気づいているのかいないのかお構いなしに、ククールは意気揚々と語る。
冗句を通り過ぎた悪ふざけは、時として刃になることも忘れて。
「何ていうか、もうこれは夫婦になるしかねぇよなーって感じ? いや本気で。」
語る、語る、色男。
「相性抜群だし、相思相愛だし? 今なら、馬に蹴られても構わないな、俺。あはははは。」
その言葉を聞いて、ゼシカは思った。――蹴る相手が馬じゃなくて残念ね、と。
「想いもそうだが、体も通じ合ったってのが最高だよな。以心伝心最高!」
その発言を聞いて、エイトは、こめかみに青筋を立てた。――とっととこの阿呆の口を封じてしまおう、と。
現状が余程、嬉しいのだろう。
浮かれているのだろう。
語りは止まらず、話は止まず。
ゼシカとエイトは互いに視線を交わし合い――小さく、頷いた。
「エイト。――はい、バイキルト。」
「……ありがとう、ゼシカ。」
「ん? ちょっと待て……何だ、今のやりとり?」
「あ、ククールにはルカニかけておいたから。」
「どうも。気が利きますね、ゼシカ。助かります。」
「うふふ。どういたしまして。」
「い、いや、ゼシカ? エイト? ……何、を」
しゃん、とタンバリンの鳴る音がした。
ククールは、虹色のオーラを身にまとった青年の姿を目にする。
にこり、とエイトが微笑む。
「雄弁は銀、沈黙は金――って、知ってるか?」
「ぅわっ、ちょ、待っ…――!!」
その日、ドコかの街道で大きな爆発と悲鳴が上がったとか、ずしんと重い地響きがしたとか何とか。
全ては、ある晴れた日の午後のこと。
頭をアフロにした焦げた人影らしきものが歩いていたのを見た、とか言う者が居たとか居ないとか。
そのアフロが銀色だったとか、赤いマントのようなものを身につけていたような、とか。
近隣の町で、そんな噂が持ち上がり、一騒動を起こしたりしたのだが、その真実は、誰かのみぞ知る。
「口を開かなかったら普通に美形なのにな、あいつ。」
「それじゃあ万能になっちゃうから、ああなんじゃない? 二階からイヤミだってそうだったじゃないの。」
「……そう、ですね。」
その言い方だと、マルチェロも美形だと認めてるようなものなんだけど――と言い掛けた言葉を飲み込んで、エイトはただただ曖昧に頷くだけに留めておいた。