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Nightmare×Knight

[5] Goodness Happines 1

それで幸せなら。



目の前を、二人の青年が歩いている。
気のせいか、並び立つ距離が縮まったような二人組が。
あいつの手が、あの人の肩に置かれる。その手がそのまま回されて、身体ごと圧し掛かるようにして、あの人にくっつく。
あの人はそれに眉を寄せるけれど、以前に比べて嫌では無さそうに見える。

むしろ、嬉しそうで――幸せそう、で。
胸がちりりと痛んだけれど、けれどその人がそうして微笑っている姿は、自分が望んでいたものであったからか、その痛みはドコか甘い。
少しだけ、切ないけれど。その人の隣が自分ではなくなったのに、嬉しい。
適わなくなったけれども、別の願いが叶ってくれたようで――嬉しい。
歯痒いのに、むず痒いものが込み上げて。

「……ふふふ。」
自然に笑みが零れた。
すると、前を歩いていた相手がその声を聞きつけたようで、肩越しに振り返る。
「……ゼシカ? 嬉しそうですね。何か良い事でも?」
そう言って相手が――エイトが、優しく微笑む。その表情を見て私は、ああ、やっぱりこの人が好きなんだと痛感させられる。
自分を凝視する視線に戸惑ったのだろう、エイトが少し首を傾げて苦笑する。
「ゼシカ?」
惹き込まれてしまう。その優しい眼に。穏やかな声に。
「私の顔に、何かついていますか?」

付いてるわよ――「幸せ」が。
そんな事を心の中で呟いた自分が可笑しくなって、また一人で笑う。
なにをやってるんだろう、私。
そうしていると、とうとうエイトが困惑した表情を見せ、たじろぐ。
「えーと……あの、ゼシカ? 私、何かしましたか?」
「ふふふ、……あははっ。」
いつもはキリッとしている青年兵士が、こんな跳ねっ返りの少女に感情を振り回されている姿は可愛くて。
私の笑いは、止まらない。

やっぱり好き。
……大好き。


◇  ◇  ◇


「……おい、エイト。ゼシカ、どうしたんだ?」
ククールがエイトの肩に手を回して寄りかかりながら、そっと耳打ちして尋ねた。
問いに、エイトは首を振って苦笑する。
「知ってたら、俺もこんなに戸惑っていないさ。」
むしろ、それはコチラが訊きたい。最近の彼女は、やけにご機嫌だ。
「ゼシカ、なんでか凄く楽しそうなんだよ。……なにか良いことあったのかな?」
「ふぅ、ん? 楽しそう、ねぇ……。」
ニコニコとしているのはいいけれど、コチラの顔をじっと見つめて微笑むことが多いのが、エイトは少しばかり気になっている。
「俺の顔、何も付いて無いよな? ……何だろう?」
ぺたぺたと自分の頬を触っては首を傾げるエイトに、ふうーっとククールが溜息を吐いた。
それから、小さく呟く。

「……この、鈍感。」
「え?」
「……何でもねぇよ。」
それだけを言って、エイトの頭をぎゅう、と押さえつけた。
「痛、いたたたた! なに? 何だ!? 俺、何かしたのか!?」
返す言葉がつい声が大きくなり、その素の状態はゼシカにも見られてしまう。
「――。」
「……。」
ククールとゼシカの視線が交差する。
二人は目を合わせ――そして、お互いに意味ありげな微笑を浮かべた。
その微笑の意図に気づかないのは、頭を押さえつけられて俯いたようなっている渦中の人ばかり。

「ククール! い、いかげん、にっ……離、せ……! 首の筋が、おかしく、なるっ……!」
「もうちょっとそうしてろ。お前が素の状態なのは珍しいからさ。」
「なに、言って……!」

――眼福になるかい、レディ?
――何よ、勝利宣言? ……憎たらしい。
視線だけで言葉無くやりとりをするククールとゼシカ。
潰えぬ想いは、そのままで。
そのままにして、ただ幸せを祈り、願い――笑った。


幸せな痛みが駆け過ぎる。彼の人が幸せならば、それで良い。どうか笑っていて。その幸せの傍らで、ずっと。