Nightmare×Knight
[4] Whiteout Road 14
離れ、離れて――祈り、願う。
白い世界の中、いきなり雪崩れに巻き込まれ、私たちは離れ離れになってしまった。
冷たい氷のような瀑布を受けて、もうダメだと思った。
次に目を覚ましてみると、そこは天国なんかじゃなく知らない家の中で、ああ命が助かったんだと安堵した。
――でも。
見回して、すぐに仲間が足りないことに気づいた。
私の大切な人の姿が無かった。
その人にいつもくっ付いている奴の姿も。
赤と青の色彩だけが欠けていて――泣きそうになった。
◇ ◇ ◇
「エイトと、ククールは……?」
ヤンガスにも王様にも尋ねてみたけれど、返ってきたのは沈黙。
空気が気まずくなり、重くなりかけるのに気づいたヤンガスが、慌てて言葉を口にする。
「あ、……あの二人なら大丈夫でやすよ! 何てったって、エイトの兄貴とククールのペアなんだからよ!」
「う、ん……そうよね。」
私もヤンガスに合わせて、それこそ無理矢理に笑顔を作る。
この場は、そうでもしないと持ちそうになかったから。私、が。
「ククールよりも、心配なのは断・然エイトよ! ククールは、まあ……オマケで心配してあげても良いかなっ。」
「うへぇ。ゼシカ、酷ぇでやす!」
「うむ、そこまで想われておるとはエイトも隅に置けぬのぅ。」
そうやって、ヤンガスとトロデ王と三人で笑いあった。
でも、本当は――……嘘。
本当は、ククールのことも同じように心配している。
だって、二人とも同じくらい大切な仲間だから。
どっちも欠けてほしくない。欠けちゃ、ダメなの。
だから、お願い。
どうか……無事でいて――!
◇ ◇ ◇
メディおばあさんが、そっと身体の温まる飲み物を渡してくれた。ヌーク草という薬草で出来たそのお茶は、少し不思議な味がしたけど、暫くすると身体が温まってくる優れもの。
身体が、ほかほかする。
でも、それは表面だけ。
私の内面は、酷い不安で冷たく冷え切ったままだった。
(兄さん、リーザス様……どうか、あの二人を守って……お願い……っ!)
祈るような仕草で、私は雪のちらつく窓の外を、睨みつけるように見つめていた。
窓の外から見えるのは、白い世界。
不安と緊張で震える体。
目の前には、真っ白の何も無い光景が静かに広がっている。
その時、パキッと大きな音がした。
それは側の暖炉の中からで、火によって木が爆ぜた音だったのだけど、静かな室内でやけに大きく響いたそれは強く不安にさせ、私の身体をビクリと竦ませた。
嫌な考えが、雪のように積もっていく。
悪い方へと考えないようにしているのに、いつの間にか最悪の結末しか思い浮かばくなっていた。
(嫌……もう、誰かを失うのは――……)
私から、これ以上、持っていかないで。
取り上げないで、彼らを。
――大切な人なの!
――ガタン!!
今度は、戸口で大きな音がした。
ビックリして音のしたほうへと顔を向けると、今度は入り口の戸が勢いよく開いた。外からの雪が、風と共に舞い込む……!
「きゃっ――」
私は思わず悲鳴を上げかけ、ヤンガスが身構える。
けれど、不穏な空気を打ち払ったのは二つの声だった。
「おいおいおい~。何だよ、そのモンスターとでも遭遇したような反応はよ。」
「ククール、先にこちらからの挨拶が抜けてますよ。こういう時は先ず”ただいま”……でしょう?」
知ってる声だった。
無事を願っていた人、待っていた存在の赤と青。
欠けた色彩が、そこにあった。
「エイト……、ククール……!」
私の今にも泣き叫びそうな声を聞いて、エイトとククールが視線を向けた。
優しい微笑と共に、エイトの柔らかな声が舞い降りて重なる。
「ただいま、皆。」
私たちの表情に、ようやく真の笑顔が戻った瞬間だった。