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Nightmare×Knight

[4] Whiteout Road 13

繋いだ手、繋いだ心。



「雪、まだ少し降ってるな。」
洞窟の中から、顔を覗かせてククールが空を仰いだ。
空はまだ鈍色。雪も微かにちらついている中、エイトが言った。
「うん、でも……これくらいなら、何とかなるんじゃないか?」
「……そうか? 途中で天候が崩れたりなんかしたら、俺たち今度は確実にアウトだぞ?」
「そうだけど――でも、ほら。太陽が覗いてる。今の内に、移動した方が良いって。」
エイトが尚もここから出ようと言うのに対し、ククールは若干迷いを見せていたが、結局最後には、折れた。
「……ま、お前の言う事も一理あるな。」
がしがしと頭を掻きながら言う。
「それに、危なくなったらお前に責任とってもらうから良いか。」
「俺が責任とるって、何だよ?」
不意に告げられた「責任」という言葉。訝しんだエイトが首を傾げつつ訊ねてみれば。

「そりゃ、色々。例えば、さっきみたいに、身体で暖め直して貰ったり……とか、な。」
「……。」
むっ、と眉根を寄せて睨み上げるエイトを見て、ククールが苦笑して肩を竦める。
「おいおい、そんな顔することねぇだろ? ――ほら、行くぜ?」
ククールが笑って、エイトに手を差し伸べる。
「……あ、うん。」
エイトがその手を見て、戸惑ったような表情をした。

「……ん、どうした?」
そうククールが問えば。
「……。」
エイトが沈黙したまま、それに、そっと手を伸ばす。
ゆっくりとした動作で、ようやく手に触れたエイトの姿に、ククールが可笑しそうに笑った。

「何してんだよ。」
笑いながら、その掴んだ手を強く握り返してやれば、エイトの頬が赤く染まった。
どうやら、照れているらしい。
その様子に、ククールが笑う。
可笑しくて、嬉しくて――愛しく、て。

「馬鹿、今更照れるなよ。手を出した俺のほうが、よっぽど気恥ずかしかったりするんだからな?」
それを聞いたエイトが、はっとした表情をしてククールを見上げると、自分と同じように照れた顔をしている相手の姿が見えた。
「いや、何でお前も照れてるんだよ?」
エイトが情けない顔をして笑いながら聞けば、ククールもこれまた情けない笑みを浮かべて言った。
「照れるだろ、普通。これって端から見れば、”さぁ仲良くお手々繋いで歩きましょう”って構図だぞ? ……ガキじゃあるまいし。」

――仲良く、「お手々」繋いで。

「お手々って、お前……くっ……くくく。ははは……」
「イヤ、何か、つい。ふ、ふふは……ははは、……っくくく。」

「あはははははははは!」
繋いだ手、笑う声が重なる。

「おまっ、お前、お手々って何だよ、お手々って!」笑いに咽ながら、エイトが言う。
「な、何だよ。手と手で、お手々だろ? 手手じゃあ、おかしいだろうが!」大声で言い返すククールだが、指摘されて気づいたのだろう笑いに咳き込みながら言い返す。
「あはははは、阿呆が、あ、阿呆がいる!」
「せ、赤面してた奴が言うなよ、馬鹿!」
そうして互いに顔を見合わせ、互いに声を重ねて、大きな声で笑った。

やがて二人は歩き出す。手は、繋いだままで。
雪は静かな音を立てて今だ降り続いていたが、それ以上天候が崩れる心配は、どうやら無さそうにみえた。
雲の間から眩しい太陽が顔を覗かせ、まるで子供を見つめる母親のような眼差しのような光を纏って、降り注ぐ。

二人の後には、仲良く寄り添う足跡だけが点々と続いた。


微かな陽光の元、響くのは重なった心が映す笑い声。そして互いに手を取り合って、歩き出す。馬鹿みたいな幸せだけを滲ませて、繋いだ手は離さない。