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Nightmare×Knight

[4] Whiteout Road 12

体感温度。



外は雪。
その雪鳴りが激しい外界とは裏腹に身を寄せた洞窟内は静かで、聞こえるのは、微かな布の擦れ合う音、喘ぐような嬌声を我慢する声、そして。

――吐息交じる熱の触れ合う音。


◇  ◇  ◇


「ふ、ぁ……っあ、……あ、ぁ……はっ……!」
二人しか居ない空間だというのに、エイトは上擦る声を必死に押し殺そうとしていた。
それを見て、ククールが苦笑する。
「何で我慢するんだよ、二人きりなのに――……声、聞かせて?」
繋げた身体を抱え上げて自分の膝の上に乗せるようにすれば、更に深く繋がって。

「あッ――……っ! う、く……!」
深い快感を与えられ、エイトが声を上げて呻いた。
「クク、……っククール、……ククール……!」
縋るように何度も名を口にして、喘ぐ。その頬を涙が伝い、流れ落ちる。
「エイト――。」
舌で舐めとった涙は、甘く感じられ。
熱に酔ってるせいだと、思った。
熱と快楽とに、甘く酔わされて。

「もっと、名前を呼んでくれ。俺に縋って。――俺を、感じて?」
焦がれるように言いながら、ククールはエイトを更に強く揺さぶった。
貪るように。

「はっ、あ、アァッ――……っ!」
身体を弓形に反らせたのと同時に、奥で何かかが弾けた感覚を受けて、エイトはビクッと痙攣する。
体内に注がれた熱が、熱かった。


◇  ◇  ◇


「……はぁ。」
熱を生んだ後、エイトは背後からククール抱き締められるような格好で地面に座っていた。
共に投げ出した足の長さの差を見て、少し不機嫌になりつつも、触れ合った箇所の暖かさに機嫌を直し、背後の相手に寄りかかる。
暖かい。
……暖か過ぎて。

――どうしてだろう、酷く不安になるのは。

「エイト……どうした?」
エイトの震えを感じ取ったククールが、肩越しに覗き込みながら声を掛ける。その声も、共鳴したように不安げに陰っていた。
「……ん、いや――何でも」
「――無いことないだろ。……どうした?」
咎めながらも優しく尋ねられ、エイトはククールを見上げながらその胸に頭を擦り寄せた。
「……うん。……不安、なんだ。」
「不安?  どうして。」
「……分からない。でも、怖いんだ。どうしてだか怖くて、不安で……。」
「――。」
ククールはエイトの前に回した手を震えるそれに重ね、相手が話すのを黙って聞く。

「怖いんだ……この、暖かさが。」
ぽつり、と呟いてエイトが項垂れた。
「何でかな……幸せなのに、考えるのは最悪なことばかりで……怖くて。」
エイトが弱々しい声で呟いて、眼を閉じる。
重ねた手の下で、ぎゅっと握り拳が作られたのを感じながら、ククールはエイトの首筋に顔を埋め、そして静かに囁いた。

「……それで良いんじゃないか?」
「――え……?」
エイトが顔を上げるのが分かったが、ククールはそのままで言い継げる。
「”幸せだから”不安……なんだろ?  じゃあ、エイトは今、幸せだと思ってくれてるんだろ? 俺は、それで良い。――お前が幸せなら、それで。」
「……。」
エイトが黙り込む。その顔を覗き込んだククールは、苦笑した。
「また泣いてるし。お前って、意外と泣き虫だったんだな?」
「お前が泣かせるんだ、阿呆。……責任、取れよな。」
エイトが上体を捻り、まだ涙で滲んだ双眸で睨み付けるけれど、すぐに笑いながら抱き締め返した。
「ああ、任せろ。」
それを抱き留めながら、ククールが笑う。
「お前が嫌だって言っても、もう離してやらないからな。」
「お前の方こそ。俺を置いていけると思うなよ。」
そう言って、互いに笑って。

――誓約のキスを交わした。


氷の中、炎に照らし出されるのは影。それはまるで儀式のように、静かで激しく揺らめいて。聞こえるのは雪の音、そんな世界の中の重ね儀。