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Nightmare×Knight

[4] Whiteout Road 11

夢の跡咲き。



髪を梳く指先、頬に触れ、首筋をなぞり、次第に身体に沿って降りてくる。
互いの存在に――想いに触れ合いながら、交わすのは口付け。

雪で冷気で凍えていた身体。
悲しい距離にいた二人。

今ではもう、柔らかな熱しか帯びていない。


◇  ◇  ◇


「震えてるな……やっぱり、まだ怖いか? ……俺、が。」
首筋に、肌に、噛み付くような口付けを優しく落としながらククールが尋ねると、エイトは悲痛な面持ちで眉根を寄せ、首を振る。
「ちが、う……っ……違う……だって、もう――違う、のに……っ!」
涙目になるエイトを見て、ククールが苦笑する。
「悪い。――嫌な事、言ったよな。」
ククールはエイトの双眸に滲んだ涙を舌で舐め取り、慰めるように抱きしめた。
「分かってる、分かってるんだ……でも、な。」
肩口に顎を乗せ、掠れた声で言い繋ぐ。

「でも、……不安、なんだ。こんな時に言うのもなんだけど……。」
「ククール……。」
そのままエイトの首筋に顔を埋め、ククールが苦々しく呟く。
「また、お前を傷つけてしまいそうで――今すぐ、お前が欲しいのに……エイトが欲しいのに、怖くて……。」
「傷、つける……?」
「ああ、そうだ……。お前だって……覚えてる、だろ?」
過去に起こした、起こされた歪みを、わざと引き摺り出すような言葉を吐いて、ククールが問い掛けた。その顔は、今だエイトの髪で隠したまま。
しかし、その声が、どうしようもなく震えていることは隠せない。
不安と焦燥と後悔と――けれど、それ以上の欲望を剥き出しにしたままで。

「……覚えてる、よ。あれは……覚えてる。」
答えながらエイトが眼を閉じ、ククールを抱き寄せた。
母親が子を守るような、労わるような仕草で、ぎゅっと――強く。

「今のお前は、俺が好きなククールだろう? ……恐れる必要が、ドコにある。」
エイトの言葉に、ククールが顔を上げた。
「エイ、ト……。」
でもお前、震えてたじゃねぇか?
ククールがそんな問い掛けの視線を向ければ、エイトは何故か、困ったように首を傾げて微苦笑した。
その反応に、今度はククールが首を傾げる。エイトが何やらもごもごと口籠っていたが、やがて少しずつ話し始めた。
「……まあ、確かに震えてた俺が悪いんだけどな……。いや、だってさ――……。」
そして、そこで一旦言葉を切り、少し気まずそうに僅かに背後を一瞥して紡いだ言葉は、ククールの想像を超えたものだった。

「ほら、外……日も沈んでるわ雪が降ってるわで、さ。その……寒いんだよ。」
流れ込んできた寒気が肌に触れてくるから。

「――……。」
エイトの台詞に、ククールの表情が崩れた。
それも、どうやったらそんな美形を崩せるんだと云うほどの有様で、流石のエイトも、そんなククールの反応を見て、ぎょっとした。
そのまま硬直してしまったククールに、エイトが恐る恐る声をかける。

「ク、ククール? おい? ――もしもーし? ククさんー?」
「は、ははっ……。」
「おい――? クク、」
「あっははははははははっ!」
今度は出し抜けに笑い出し――たかと思うと、ククールはエイトの両肩を掴んで、地面に押し倒した。
「あ痛っ……!」
痛い、と叫んだものの、その辺はククールの見事な手際により、衝撃も痛みも実は全く無かった。現に、ドコにも痛みは無い。それに、双方とも笑っていた。

「この――馬鹿!」
「いや……ごめん。」
笑いながら怒鳴るククールに、これまた笑いながらエイトが謝る。
「ったく、寒いなら寒いって早く言っとけ!」
ざっと前髪を掻き上げたククールが、エイトを見て溜息ひとつ。
「待ってろ。すぐに暖めてやるからな?」
そう言って、エイトの胸元を意味ありげに撫で上げると、小さな声が上がる。
はふ、と息をついたエイトがククールの首筋に手を回し、耳元でそっと囁いた。
「ん。しっかり暖めてくれることを期待する。」
くすくすと、からかうような甘い声がククールの耳朶を打つ。
溢れる言葉を交わす、その時間すら惜しくて。

ただ、心と身体を溶かすような口付けをして体を重ねた。

夢の跡に、痕が咲く。互いに触れ合いながら、笑って、甘い口付けを交わして。そして暖め合うのは、心と身体。