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Nightmare×Knight

[4] Whiteout Road 10

涙の意味。



「……夢じゃ、ない……よな?」
ふと、不安になってそんな事を呟けば。
「……夢なんかじゃ、ねぇよ。」
と、答えが返ってきて、俺は泣きたいような気持ちになった。
この現実が嬉しかったから。

「夢の方が……良かった、か?」
だから、そんなことを聞き返された時、俺は勢い良く否定してみせた。
この状況が夢だったら、なんて思いたくなかった。考えたくも無かった。
夢じゃなくて良かったと、本当に思ったから。
嬉しすぎて、幸せを感じすぎて泣いてしまった。子供のように、ぼろぼろ涙を零して。
感極まったら直ぐに泣いてしまう自分が少し情けない気がしたが、哀しくて泣いてるんじゃないから良いやと考え直し、そのまま泣いた。
泣いたりなんかしたら、ククールが困ってしまうというのに。
思った通り、ククールが少し困惑した表情になって俺を抱きしめた。

「なぁ、泣くなよエイト……。せめて、笑ってて欲しいんだ、お前には。」
なんて、言われて。
分かってる。泣くよりも、笑っていた方が良いっていうのは。
でも――今のこれは、哀しいとかそんなので泣いてるんじゃなく、て……。

「幸せ過ぎて泣いてしまうんだよ!どうやっても!」
つい、怒鳴るようにそう言ってしまってから、俺は少し自己嫌悪した。
怒ってどうするんだよ。ククールが、誤解しちゃうだろうに。怒るとこじゃ、ないし。
また、間違ってしまうんだろうか俺は。

案の定、「馬鹿」って言われた。それも、二回も。
俺は更に子供みたいになってしまって、泣くのから一転、噛み付くように言い返す。
けれど抗議の言葉は、途中で飲み込むこととなった。
ククールのキス、で。

驚く俺。
けれど、それ以上に驚かされたのは、ククールの頬を伝う彼自身の涙。
――何で……泣いているんだ?
不安になった俺の頭上で、ククールの声が聞こえた。

「俺の方こそ、幸せすぎて……泣ける。」
幸、せ?
それは、どういう意味だ?
どういう意味で、とったら良い?
混乱しすぎた俺の口から出たのは、疑問の問いかけ。

「な、……何で――」
素直に受け取れないのは、もうこれは性格だから――などと、引っ包めていいものなのかは微妙なところだが、そうしておいて。
本当は、その意味を素直に受け取りたいんだけど。
……でも、また”間違って”しまったら?

「言っただろ? ……お前と同じだからって。」
ククールが言う。
俺は、答えを返す。
「それって……、でも――でも……!」
やっぱり、寸前で言葉が止まる。何回、”でも”と言っては口篭っただろう。
答えを確かめるのに、臆病になりすぎている。情けないにも、程がある。

答えは、同じ?
――本当に?

俺と、同じ気持ち……だとしたら、それは――その先は、俺が望むもの?
心が彷徨っている俺に、ククールの柔らかい微笑と、抱擁が降ってきた。
俺の背中を押すように、言葉が流れる。

「”幸せ過ぎて泣いてしまう”んだよ、俺も。」
「……っ!」
だめだ。泣ける。
俺は咄嗟に唇を噛んで、耐えた。泣くところじゃ無い。
ククールが望むのは、確か笑顔だった筈だから。
けれど、容赦のない止めの一撃が来た。

「愛してる。」
「……っ!」

ククールが望んでいたものを示す筈だったのに、その言葉を――「愛してる」という台詞を聞いた途端、俺のタガが外れた。
俺の両目から、一気に涙が出る。
はらはらと、などという軽いものじゃない。号泣に近い勢いで、涙が溢れ出てしまった。

「……エイト――」
ククールの声が不安で滲んだのが伝わり、俺は慌てた。
違うんだ、これは……。
これは、悲しいからじゃないんだ!
俺は必死になって、涙の意味を紡ごうと、口元を押さえる。震えを押さえつけて、何とか説明しようとして。
「……、も、……」
慌てないように、間違えないように。

「俺もっ……愛してる……!」
怒鳴るような形になってしまった告白と共に、一気にククールの胸にしがみ付いた。
ずっと言いたかった言葉は、きっとコレなんだと――心のドコかが、そう告げた。


泣かないでと告げられても、流れる涙。でもそれは幸せだから、という意味なのだと言っておいて。――思いっきり、泣いた。