Paladin Road
- 01 -
Fortune Dice
それは誰にも知られることなく消えた物語。
名も無き竜は謳う。一国の王子と一人の剣士が生きた詩片を。
名も無き竜は見届けた。煉獄の中に消えた二人の最後を。
◇ ◇ ◇
崩れた瓦礫、渦巻く焔。
辺り一面は、赤、赤、赤。他に動いているものは無い。何もかもが蜃気楼のように揺らめいているその中央、剣を手にして背を向けている男一人を除いては。
がらがらと、何が崩れる音を聞く。
崩れたのは建物か、それとも彼らの関係か。
火の粉が舞う。目を開けているのも辛いほどの熱気の中で、床に座り込んだ青年は目の前の男から視線を離さない。焼けた灰が熱気で巻き上がって頬を軽く焦がしたが、彼は目の前に立つ男を見つめたまま動かなかった。
やがて、青年は口を開く。熱気で喉が焼かれそうになったが、痛みに耐えながら呼びかけた。
「テ、リー……。」
相手は振り向かない。血を滴らせた剣を手にした格好のまま、焔の中に立ち尽くしている。
その背には、憎悪と、後悔と、それから――。
「テリー……っ!」
もう一度、焼けつく熱気の中から名を呼んだ。すれば、男の体がピクリと揺れて――肩越しに、ようやく振り返る。
「――エルド。」
視線を合わせた男の顔には、軋んだ声とは裏腹に、壊れるような笑みが浮かんでいた。
泣きたいのか、笑いたいのか。
歪んだ微笑。エルドは問いかける。
「……これが、お前の望んだ道か?」
縋るような声で訊いた。じゃり、と砂礫を踏む音がしてテリーが向き直り、少し首を傾げるようにして答える。
「望んだのはお前だろ――王子サマ。」
そう言って、エルドの喉元に剣の切っ先を突き付けた剣士は――短い間ながらも、一時は王子専属の騎士だった男は――焔を背に、子供のような声で答えた。
光差す窓辺、まどろみの午後。
あの日交わされた約束は、絶望で以て叶えられ――取り返しのつかない未来となった。
Alea iacta est.