君に祝福を
騎士はそうして花束を捧ぐ・1
「……おかしい。」
冬の季節が始まり、本格的に冷え込んできたある日の午後。
ククールは憮然とした顔で呟きながら、周囲の光景を眺めていた。
その手には、一枚の手紙。
じきに降誕祭があるから、それの誘いだと思っていた。……初めは。
だから期待しつつ、ペーパーナイフで切る手間すら惜しくて手で封を破って中を覗けば、あったのは手紙が一枚きり。
招待状の類なら、カードだ。なのに中身は普通の便箋で、しかも差出人の名前が書かれていない。
だがククールには、それが自分の知っている相手から出されたものだと分かっていた。
薄青の紙。
彼が好きな色。
「連絡が無ぇかと思えば……こんな紙切れ一枚で終了かよ!?」
呟きに混じりだす苛立ち。
怒りの原因である手紙の内容は、簡素で短いものだった。
『用事が出来た。だから、しばらく会えない。』
それだけ。
会えない理由どころか説明すら書かれておらず、それきり。
「しばらくっていつまでだよ! ふざけんな! ……クソッ!」
ククールは前髪を書き上げると、手紙をぐしゃりと握り潰すなり勢いよく立ち上がった。
そして起こす行動は、相手の捜索。
手紙を書いた相手を――エイトを探し出して、とにかく文句を言ってやろうと思った。
まさか降誕祭どころか新年祭まで会えないんじゃないだろうな、とそういった不吉な予感が頭に浮かんだものだから、余計に必死になったのは秘密だ。
◇ ◇ ◇
「……あれ、か?」
意気込み、長旅にも耐えられるような格好で捜索に出たものの、当の尋ね人――エイトは、意外にも呆気なく見つかったものだから拍子抜けする。
いや、今のククールの視点から正しくいえば、エイト”らしき”人物を見つけた、というべきか。
たまたま訪れた、アスカンタ。
城内へ入る手前の道で、兵士同士が会話をしている場面に遭遇した。
なんてことのない風景。城があればそれは平凡なこと。
兵士の片方は、いかにも「兵士!」といった風体で、もう一人はそれとは対照的な、優男風の青年だった。
ククールの注意を引きつけたのは、その優男。
細身の体躯。見覚えのある髪の色。
しかし髪型や服装は、ククールの知っている人物のものではない。
前髪を後ろへ流した格好は、丁度マルチェロの髪型とよく似ていた。
服装は、黒い生地で織られたアスカンタ所属のものらしき兵士の外装。
見知らぬ格好の青年は、しかし見覚えのある印象を抱かせて。
「エイト、だよな?」
声を掛けようかどうしようかとククールが躊躇っていると、城内から別の兵士が出てきた。
そしてエイトらしき青年に気づくと、手招きして叫ぶ。
「セラト、ここに居たのか! ちょっと来てくれないか。馬が暴れちゃって……!」
「ああ、分かった。今行く。」
『セラト』?
ククールは怪訝な顔をして考え込む。
雰囲気の違う格好をしているものの、青年が身に纏う気配は見知ったものだ。
だから彼がこちらの探している人物である筈……なのだが、自分が知っているものとはまるで違う名前で呼ばれていることが確信を揺らがせた。
他人の空似か?
それにしてはどうにも面差しが重なり、気になって仕方がない。
疑念は疑惑を増幅させ、遂にククールの足を止める。
引き返して他を当たろうか?
いや、このまま何もしないで帰るのは、もやもやする。
ここは人違いであっても、正体をはっきりさせておきたい。
ただの間違いなら良いが(良くは無いのだが)、そうでなければ多くの疑問が残ったままになる。それは気持ちが悪いし、下手をすると二度手間になりかねない。
ククールは何度か躊躇った後、結局は青年が一人になるのを見計らってから声を掛けることにした。