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Dear Dragon

1.へーしちょーなのです!



父様と母様は、私が小さいときに病気で亡くなったのだ、と誰かに言われた気がします。
誰なのかは分かりません。その頃の私はなぜかぼんやりしていて、気づいたら、この大きな家にいました。
案内してくれた人に聞いたのですが、ここは「城」というものらしいです。「家」よりも大きくて広いと「城」になるのだと思っていたのですが、その人は困ったように微笑むと、「後でいろいろ教えてやるから大丈夫だ」と頭を撫でてくれました。
ここのお城は、”とろでーん”というお名前だそうです。
案内してくれた兵士のおにーさんの他に、ちょっと怖そうな顔をした料理長さん、優しいメイドのおねえさんたち。色々な人が働いていました。

私は、その日からここで働くことになりました。最初は”しゅーどーいん”というところへ行くお話が出たのですが、「今の修道院に入れるのは絶対にまずい」と誰かが言ってこのお城に置いてもらえることになりました。
最初は「したっぱ」という雑用係からでした。大きくなったら「へーし」になる訓練を始めて、この家……じゃなかった、お城の偉い人を守る係になります。
私はたくさん頑張ったので、「へーしちょー」になりました。
でも「したっぱ」の頃のお仕事も嫌いでは無かったので、今でも色々なところの掃除をしたり、お馬さんの世話をしたり、食事を運ぶお手伝いをしています。
覚えることも増えて大変なのですが、時々お手伝いのご褒美だと言って、お菓子をくれる人がいます。(お名前は「秘密だよ」とのことなので、言えません。ごめんなさい。)

そんな毎日なので、辛いと思ったことはありません。
優しい人たちばかりですが、仕事を放り出して働かないでいると、当然怒られてしまいます。この前も料理係のお兄さんが、料理長さんに怒られていました。
喧嘩は、よくありません。声が大きくなったり、顔が怖くなったりするからです。
私は、どちらも好きな人たちなので、喧嘩しないでくださいと頼んだら、すぐに止めてお菓子をくれました。良かったです。

それから、お姫様とも仲良くなりました。ミーティアっていうお名前で、とても綺麗な女の子です。ちょっとわがままだったりするそうですが、私にはよく分かりません。私と年が同じで、よく遊んでくれるので大好きです。
王様も色々な話をしてくれます。最近は、姫様との事を訊いてきます。よく遊んでくださります、と素直に感想を言ったら肩を落すのが見えました。
王様は溜息をついた後、「引き止めて悪かったな。仕事に戻って良いぞ、エイト」と手を振って下がるように言われたので、私はお辞儀をして(こういう礼儀は大切なのだそうです)、庭に出ました。

今はまだ休憩時間で、今日は天気が良いので、日向ぼっこするのです。ここの人たちは、みんな優しくて良い人です。父様と母様が居なくて寂しいこともありますが、私は幸せ者なんだと思います。

あ。向こうの方で、馬番のお兄さん――私の先輩さんなのです――が、呼んでいます。”しゅっちょう”から帰ってきた他のお兄さんたち――こちらも先輩さんです――も、一緒です。多分、これから大広間の方に集まって、王様に「ごほーこく」するんだと思います。
私もそれに呼ばれているみたいなので、行ってきます。
それではまた、お時間のある時に。
某日、トロデーンにて。――エイト


【##業務連絡】
エイト兵士長に甘味類を与えるのは構わないが、近頃その甘やかしが過剰になりすぎている、と軍医より通達あり。
このままでは健康被害(肥満・虫歯など)が出るかもしれないとの懸念から、甘味料を与えることに制限が課される。(量・時間帯については後日連絡)
改善されない場合は、犯人を特定・発見次第、罰則が科せられるかもしれないとのこと。
各自、注意されたし。
【##いち兵士の日誌より抜粋】