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Dear Dragon

7.おひさまのまくら



今日は、願いの丘という高いところに皆で登りました。
良いお天気だったので「ピクニックをしませんか」と、私が提案したのです。
皆はさんせーしてくれました。
あ、でも、ククちゃんは不満そうでした。
「冗談じゃねぇ」とか、「嘘だろ!?」とか、何回も連呼するので、終いにはゼシカちゃんに怒られていました。……ちょっと可哀想な気がしたので、後でお菓子を持って、ククちゃんに「わがままでごめんなさい」と言おうと思います。

朝ごはんを食べて少ししてから向かったのですが、そこに行くまでの道は長くて高くて、頂上に着いたらお昼になっていました。
ゼシカちゃんが美味しいお弁当を作って持ってきてくれていたので、嬉しかったです。
なので「お料理が出来る女の人は、いいお姫様になれるそうですよ」といつかお城で人から聞いたことを言うと、真っ赤になって俯いてしまいました。……何か、失礼なことでも言ってしまったんでしょうか。
おろおろしていると、隣に座っていたしっぽのおにぃさん……ええと、ククちゃんが私の肩を叩いて「ほっとけ」と言って笑っていました。
ほっとくんですか? いいんでしょうか。
少し心配でしたが、ククちゃんは女性のことなら俺に任せろ、と自信満々で言い切るので、とりあえず従ってみることにしました。
でも、もし後でゼシカちゃんが泣いてたりしたら謝っておこう、と思いましたがその心配はきゆーで済みました。
ククちゃんの言った通り、大丈夫でした。年上の人の言うことは聞いておくものだと、改めて実感した次第です。
ご飯の後は、皆で日向ぼっこです。草の上に仰向けに寝ると、お日様の日差しがとても気持ち良いのです。
お城に居た時は、休憩時間によくこうしていたのですが……私の居た、お城は――みんなは……。

……。
……。
……今は、とげとげがいっぱいで、静かで、暗くて、モンスターも居ついてしまっています。
お城にいる皆さんの様子が心配なのですが、そこに一人で戻るのは、少し……怖いのです。
よくケーキを作ってくれていたりょーりちょーさんとか、難しいことを教えてくれたせんぱいへーしのおにーさんとかが、誰もお話しできない状態になっていて……そういう姿を見るのは、哀しくて、怖くなります。
怖いけれど心配で、だから様子を見に行きたいのですが、王様とお姫様を放ったらかしにするのは、家臣として最低なのだそうです。
これは王様が旅の間中、ずっと言っている言葉なのです。私が一人でお城に行かないよう、注意しているのだと思います。(実はヤンちゃんと会う前、夜中にこっそり見にいこうとしたことがあるのです。王様に見つかって、ちょっと怒られてしまいました。)
でも、時々むしょうに会いたくなるのです。会いに行きたくなるのです。

「エイト? ……泣いてんのか?」
目を開けると、ククちゃんが隣に座っていて、私の方を見下ろしていました。
泣いてる?
言われて目元に手を当てると、水を拭ったような感触がありました。……どうやら、自分でも気づかないうちに泣いていたようです。へーしちょーなのに、格好悪いです。
上半身を起こして手の甲で拭っていると、ククちゃんの手がそれを押しとめてきました。
見ると、ククちゃんが眉を寄せて怒ったような表情をしています。
こんな良い天気の中、一人だけ泣いている私が悪いのですから、怒られても仕方がありません。ごめんなさい、と謝ると、頭を軽く叩かれてしまいました。
やっぱり、ククちゃんは怒っているのです。
でも、降ってきた声は酷く柔らかなものでした。

「ばーか。謝る必要なんかねぇだろ。何か、悲しい事でも思い出してたのか?」
「……あの、……。」
「あー、言いたくないんならいい。……俺で良かったら胸を貸してやるよ。」
そういうなりククちゃんが片腕で引き寄せてきて、そのままマントで包まれるようにして、ぎゅうってされました。
ククちゃんは、良い匂いがします。
香水じゃなく、もっと爽やかな……新緑の中の風のような、そんな香りが。

今日は良い天気です。
ぽかぽかです。
私は陽だまりの中、そのまま眠ることにしました。
ククちゃんにぎゅーってされると、凄くあったかくて、まるで抱き枕のようで気持ちが良いのです。
なので、少しだけ。
そのお昼寝の時間だけ……枕になってもらうことに、しました。
あたたかくて、ククちゃんからは、おひさまのにおいがして……。
本当に、今日は……良い、天気です。

願いの丘、頂上にて。
――エイト。