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嘘の代償 断罪の宴 2

Endless End



「はっ……うあ、あっ……もう、止め……って……!」
「止めて、だと? ――それが人に懇願する物の言い方か?」
「ひ、ぃっ! や、あ……あ、あああ……っ!」
窘める言葉と同時に自身を強く擦られ、エイトが悲鳴を上げた。と同時に強く突き上げられ、その圧迫感に生理的な涙がぼろぼろと溢れる。
「ふっ……、っく……あ、ぁ……うああああ。」
「……ははっ。何だ、まだ涙が出せるんじゃないか。」
相手が愉快そうに喉を鳴らし、笑う声をぼんやりと聞く。
喉を仰け反らせて泣けば泣くほど、相手の機嫌が良くなるのをエイトは知っていた。……学習したというべきか。
けれど散々泣かされたから、もう体中の水分なんて出し尽くしたと思っていた。
涙なんて出ないと思って……なのに、どうやらまだ残っていたらしい。
もっとも、機嫌をとる為に泣いているのでは無いのだけれど。

「良い様だな。普段のあの取り澄ましたような態度が、こうも無様に崩れるとはな?」
「は、っあ……あ、あ、っ……!」
粘着質な音がする。
自分の口から零れる嬌声。
嫌な音だけがする空間。

もう嫌だ。
もう許して離して解放して。
そんなことばかりを願っているのに、こうして抱かれている身体はといえば、快楽の波に素直に疼いて言うことを聞いてくれない。自分自身のものだというのに。
全く、無様過ぎて涙すら自分の意思で流せない。
……涙なんて、もう、見せたくないのに。

「――んっ、く……はぁっ……あ、ふっ……」
身体の奥を抉るように、楔が蠢く。あの日、強引に磔にされたものと変わらないそれを、今も受け入れている。
一度きりだと思っていた。
続く断罪。
始まりは、いつからだった?
それは多分、嘘を重ねて引き裂かれたあの日から。

あの時の残像が、脳裏を過ぎる。

受け入れた相手を――これから先も、一緒に居ようと約束したククールを、酷い嘘で裏切ったあの瞬間の光景が浮かぶ。今も鮮やかに、はっきりと。
寄せていた想いを捻じ切り、寄せられていた想いを叩き潰したあの時、あの後のこと。
殴られた頬は、果たしてどちらだっただろう。
右?左?それとも……両方?
どこを噛まれた?
どこに爪を立てられた?
何でだ、どうしてだよ、と繰り返し言いながら、乱暴に突いて揺すって――そして、涙して。
目を覚ましたら、ククールの姿は無かった。置手紙も無いままのそれは、完全に愛想を尽かされたのだという現実。
言い訳の一つでも良いから聞いて欲しかったと、そんな自分勝手なことを考えながら、ボロボロになった身体ごと抱いて、一人で泣いた。
本当の独りきりになったあの日のことは、ずっと忘れないだろう。
これから先も――ずっと……思い知らされる。
ククール、と唇で名の形だけをなぞれば、それに気づいた相手が――マルチェロが、忌々しそうな顔をして舌打ちをするのが聞こえた。容赦なく、ぐたりとしたエイトの性器に爪を立てる。
「あっ……い、た……あぁっ!」
現実に返ったエイトの耳に、マルチェロが機嫌の悪い声で話すのが聞こえた。
「まだ、あれを引き摺っているとはな……しかも、この最中に名を呼ぶとは良い度胸だ。」
爪立てた性器をそのまま握り込んで揺すり上げる動きを再開すれば、エイトが悲鳴にならない声を上げて泣く。
「あ、あ、あ……うぁ、あっ――や、っ……ぁ、あぁ、うっ……あっ……!」
痛みと快楽が押し寄せ、その強さにエイトがパニックを起こしてまた泣いた。
それを満足げに見下ろし、マルチェロはエイトの口に自分の指を含ませて、言う。
「悲鳴を上げる割には、随分と感じているようだがな?」
「ん、ふ……む、……か、ふっ……」
口腔を蠢く指と体内を穿つそれの動きが共鳴しているような感覚に、エイトはもう理性を手放していた。ただマルチェロの声をどこか遠くで聞きながら、室内に淫らに響く音に耳を澄ます。
ぐちゅぐちゅと掻き回される度に、繋がった部分から注がれたものが溢れる。
繋がれたまま何回も中に注がれて、何回も受け止めさせられて。

足を流れ伝うその粘液が、気持ち悪い。
けれど、流されていく。
心も、身体も。

この室内には相変わらず、あの芳香が漂っている。
心を癒す効果があるのだと。精神のバランスを整えてくれるものだと。
そのようなことが本に書かれていたのを見た気がするのだけど、あれはきっと全くの嘘なのだろうと、エイトは思う。
不意に鼻につく、ラベンダーの香り。
意識に絡み、四肢に絡み、心が虚ろになっていく。

「また、考えことか?」
「ひっ――あ、あああああっ!」
一番奥の弱いところを音が擦るほど抉られて、また思考が飛ぶ。

……もう考えるのは止そう。
そう思いながら、繰り返される宴に意識ごと身を委ね、エイトは静かに眼を閉じる。

ほら、こうすれば。

何も、見えなくなる。
何も、聞くことなどない。
何も、考えずに済む。

だから、何も望まない――否、何も望めないのだ。
終わりが終わらないから、何時まで待っても始まりが来ない。

ああ世界が閉じていく。
薫る帳が落ちてくる。
瞼の裏で、紅い十字架が朧げに霞んで消えていく。
その影に銀色の光を見た気がしたが、もうこの手には戻らない。

さようなら、始まりの無い世界。
ようこそ、終わらない世界。

...Broken Lover