Nightmare×Knight
[1] 始まりはNightmare 5
互いに付いた傷跡。これからどうすれば良いのか、わからない。
飛んだ理性がようやく戻りつつある中、エイトは無言で天井を仰いでいた。
気持ちを素直に伝えていれば、こんなことにはならなかったんじゃないか――そう考えるも、こうなった今ではもう遅い。喉と体のあちこちの痛みで、全てが夢でなかったと思い知らされる。
もっとも、本当に痛いのは体に付けられた傷ではないけれど。
窓の外を一瞥すれば、夜。微かな月明かりが室内に差し込んでいた。ふと自分の隣に目を向けると、存分に飽食を楽しんだ獣が満足そうに眠りについている。
銀色の、獣。
餌を――エイトを逃がさないように、しっかりと抱え込んでいる。
到底、離してくれそうもない。……離せる力など無く。
夜の薄闇の中、銀の髪に目を留める。絹糸のように細くてさらさらした綺麗な髪。光に当たると、なお一層煌めいて見える、大好きだった銀糸。
戦いの最中、ククールが剣を振るう度に流麗な曲線を描いて目の前を舞うのに見惚れてしまったこともあった。
自分が抱かれている間、乱れ解けたその髪が何度も肌に触れた。
目の前で揺れて、時々髪の間からククールが顔を覗かせて――笑っているのが見えた。
見ていて、泣きたくなるような切ない微笑を浮かべていたのを思い出す。
その時、ククールの頬を伝って汗が落ちたので泣いてるように見えた。
あれは本当に涙だったのだろうか?
――今では、もう分からない。何もかも食い尽くされて、分かる自信などすっかり無くなってしまった。
嘘を重ね続けた結果、下された罰。
これではもう、伝えることは出来ない。
こんなことになるなら、意地を張らずに言えば良かった。たった少しの言葉で、状況が違ったものになったかも知れないのに。
エイトは仰向けになったまま、目を閉じると、小さな声で呟いた。
「……白状するけど、俺は……」
――あの時、罵倒ではなく本当に伝えたかったのは。
「俺は、ククールが好き……だったんだ。」
敢えて過去形にしたのは、これ以上は惨めになってしまうと感じたからだ。
告白に失敗して相手を怒らせ、取り返しのつかない関係に拗れさせたのは自分なのだ。
こんな状態で相手に好きだと伝えて、何になる?
エイトは一度言葉を切ると、ふっと溜息をついた。それから、小さく笑って付け足す。
「――…もう、遅いけど――…さ。」
懺悔にも似た告白を終えるともう一度深く息をついて、疲労から訪れた眠りへと身を委ねた。
エイトの閉じた瞳から涙が一筋流れ、シーツに跡をつける。
隣接する温かい体温。なのに、それは泣きたくなるほど冷たく感じられてますます胸が痛くなった。
誤魔化す為に「好きだった」と過去形にしながら、眠る相手にようやく告白をしてみたけれど。
……心も何も満たされず、悲しくなっただけだった。