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Nightmare×Knight

[2] Bad Bedmate 1

超えてしまった境界線。曖昧な距離が築かれて。



あの日、あの夜が明けてから二人の関係は変わった。
エイトは傷跡の痕さえ残さない表情で、いつものように見事に振舞っていた。まるで何も無かったかのように行動する姿に対し、ククールも同じようにしてみせた。

――けれど、ククールは知っていた。
どんなに隠そうとも、完全には押し隠せていないことを。
例えば、肩に手を回しながら声をかけたりすると、それが良く分かった。絡みつかせるように腕を首筋に掛けると、エイトは一瞬、ほんの僅かに身を竦ませるのだ。
それを知りながら、わざと耳元に息を吹きかけるように低い声で囁いてみせれば、エイトは強張った微笑を作ってやり過ごそうとする。
仲間に悟られないように必死に耐えるエイトと、敢えて彼らの前で追い詰めようとするククール。

傍から見れば、ただ仲の良い二人の青年。
――そう見せかけている彼らの関係は、ゆっくりと歪んでいく。


+ + + + + + +


夜。
エイトは普段のように一人で眠れなくなっていた。
その原因は、夜毎ククールが部屋を訪ねてきて、飽きもせずにエイトを抱くようになったからだ。
元来エイトは警戒心が強く、大勢のいる部屋の中ではなかなか眠りにつけないのでいつも一人だけ別に部屋をとっていたのだが、それが今では完全に災いした。

――そしてそれは、ククールにとって都合のいい状態となってしまっていた。
部屋に鍵を掛けてしまえば、他に邪魔は入らない。エイトが拒絶しても、抵抗してみせても、体格差も手伝って力では敵わない。
完全に押さえ込まれて、そうして望まぬまま抱かれていく。
毎夜、そんな一方的な饗宴が続いた。

そして、その夜も。

「ん、ぅ……ッ」
口内をククールの舌が蹂躙する。舌と共に侵入してくる唾液にどうしても嫌悪感を隠せず、エイトが眉を寄せて耐えるのを見ながら、ククールは顔の角度を変えて何度も口付けを重ねる。
ちゅ、とわざと音を立てながら貪る様なキスに、エイトは羞恥心から真っ赤になる。堪らず、エイトが圧し掛かる相手の肩をドン!と強く叩くとククールはそこでようやく僅かに身を離し、彼を見下ろした。

「――何だよ?」
意地悪そうに、くつくつと笑う。
余裕めいた態度を見せ付けられたエイトは、唇をきゅっと噛み締めて睨み返す。

けれど、それだけ。
エイトはもう罵倒も抵抗もしない。
ただこうして相手を見据えるように、睨み返すだけ。
そして、ククールはこの視線に一瞬だけだがどうしても怯んでしまう。
何度、その身を陵辱してもエイトの瞳はいつも深い色をしていて。
その中に微かに窺える悲しい色。それらがククールを戸惑わせ、怯ませ――苛立った欲望を一層、強く煽るのだ。
怯んだ自分を嘲るように、口端を上げて。
エイトの肌に手を這わせながらククールは口を開いた。
「言いたいことがあるなら言えよ? お前は、睨んでるつもりなんだろうけど、さ?」
「……っ!? う――ぁあっ!」
冷笑して、相手の答えを待つまでも無く一気にエイトを貫いた。強い衝撃と痛みにエイトが背を仰け反らせ、小さく呻くのを見下ろしながらククールは冷笑を浮かべて言葉を続けた。
「誘ってるようにしか見えないぜ? ――少なくとも、俺にとってはな。」
そう告げて笑いかけてやれば、エイトの頬を伝って涙が落ちるのが見えた。悔しさからか、悲しさからかは知らない。……知らないほうが良い。
「ふっ、あ……い、や、……あ、あっ」
もう何回、こうして泣かせれば、……啼かせれば、気が済むのだろう。

「何してんだろうな、俺は。」
ククールは小さく呟き、そうしてその夜も残酷にエイトを貪った。

互いに真実の言葉を語らないまま、偽りの快楽に逃避する。けれど、まやかしの楽園はいつか崩壊するのだと ――何かが、そっと囁いた。