Nightmare×Knight
[2] Bad Bedmate 4
ゆっくりと崩壊する――偽りの楽園が。
ゼシカと話した後、ククールは真っ直ぐにエイトの部屋に向かっていた。
けれどその足取りはどうにも不安定で頼りなく、歩調につられるように銀の髪が惑うように揺れている。
部屋に近づくにつれて身体が重く沈む感じがするのは、居た堪れないからだ。
エイトにしたことを、していることを、ココへ来てやっと自覚したらしいので罪悪感でも覚えているのか。
――罪人気取りか?
心の奥でそう吐き捨てるのは、他ならない自分自身の声。を歩く足取りが更に重くなった気がした。
まるで、鉛を肺腑に直接詰め込まれていくようだな――と、そんな事を考えてしまった自分を薄く笑いながら、静かな廊下を歩き、階段を上る。
ぎし、ぎしと。
いつもなら気にしない階段の軋む音が酷く気に障るほどに、神経がピリピリとささくれ立っているのが分かる。
長い時間を掛けてそこに辿り付いた気がした。
エイトの居る部屋、そのドアの前でククールは何かに怯えたように一瞬立ち竦む。
怯えさせているものは、エイトか――それとも呵責の心か。
――何が呵責だ、白々しい。
息を深く吸って、静かに吐いた。
髪を掻き上げて顔を上げると、震える手をドアノブに伸ばし――ゆっくりと、引き開けた。
◇ ◇ ◇
――身体が、重い。
不完全な眠りの中で、エイトはそんな不快感に襲われていた。
浅い眠りで鈍くなった思考と、全く癒されない身体が引き起こすものは、まるで誰かに揺さぶられているような擬似感覚。
乞われて、恋われて――壊れていく。
抱いた気持ちを誤魔化して偽りの言葉を口にした自分が悪いのだと自覚はしているし、その上で受け入れている行為だが、それでも――もう、もたない。
落ちたのは食欲ばかりではなく、体力も精神もガタガタになっているのを今日のことで自覚した。
「うっ……え、ぐ……」
吐き気が酷い。熱があるのか何も考えられない。
心も身体も崩壊する寸前だった。
それは僅かな衝撃で壊れるのだろう。
ああ、きっと……崩れてしまう。
不安定な眠りの胎内、漠然とした静の世界。
このまま眠りに落ち込んで、いっそ目が覚めなければいい――と。
そんなことを考えるほどに、疲れていた。
目覚めなければいいのだ。永遠に。
そうすればもう何も考えなくて済む。
ククールのことも、まだ無様に引き摺っている想いも消えてしまって、さぞかし楽になれるだろう。
――ふ、と。
どこか遠くで、扉の開く音が聞こえた気がした。
けれどエイトには、それが夢なのか現実なのかを区別する気力など無く、不確かなまどろみの中に引きずり込まれるようにして落ちていった。