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Nightmare×Knight

[3] Stun Distance 4

願う人が居る。願う人が居た。ただただ、願った。



曖昧で漠然とした関係のまま旅が続いていた二人の前に、突如として現れたのは、ドコまでも白い世界だった。
洞窟を抜けた先にあったのは、雪と氷の大地オークニス地方。蒼天の下で輝く積雪が眩しい。

「――うわぁ、凄い! 真っ白よエイト!」
露出した両肩を寒そうに擦りながら、ゼシカが白銀の世界に息を吐いた。
「……レディ、さすがにその格好は見ていてコッチも寒いんだが。これでも羽織っていたらどうだ?」
そう言って、馬車の荷からククールがマントを取り出してゼシカに投げて寄越せば、彼女が苦笑しながら言い返した。
「本当に女性に関しては目ざといのね。……嬉しいんだけど、私よりもエイトのほうを見てやんなさいよ!」
「……え、」
「――っ!」
ゼシカの言葉に、エイトとククールが同時に息を呑み、そして僅かに狼狽の色を見せた。
その二人の様子を見て取ったゼシカが、何かを悟ったのか笑みを消して眉を寄せる。
「……どうか、したの? 二人とも。私、ヘンなこと言ったかしら?」
「……ん、いや……別に。何でもないけど、よ。――なあ、エイト?」
「……。そう、ですね。ゼシカが優しいから、嬉しくて……固まってしまいました。」
そんな台詞を言い返し、エイトとククールの二人が笑ってみせる。
けれど、その様は見ているほうが辛くなるほど不自然で、返す言葉が見つからないほど、辛すぎて――。
ゼシカが軽く唇を噛んだが、それ以上は何も言わず、追求するようなことも言わずに、ただ一言だけを口にした。

「……もう……なに言ってんのよ。」
そう言って、微笑してみせた。――そうすることしか、出来なかった。
二人の間に入るには、距離が遠すぎた気がしたから。
彼らは互いに、誰よりも、何よりも近かったのに。

今はどうしてか――酷く、遠く見えた。


◇  ◇  ◇


さく、さく、と。
雪原の中、それぞれが固まり並んで歩く。ただ前へ。町を目指して、さくさくと。
ヤンガスとトロデ王が何か言い合い、そのやり取りにゼシカが呆れて苦笑する。
彼らに混じって、エイトとククールもそれなりに笑っているのだが……それはやはり、空々しい感じがした。
勿論、それに気づいているのはゼシカだけだ。
気づいていたからこそ、歯痒かった。何も出来そうに無いのが、辛かった。

切っ掛けがあれば。
彼らの背を押す何かが起こればと、ただ、それだけを思っていた。

強く深く、願っていた。何かが起こるのを。
何か――それは例えば、奇跡とかを信じて。

彼女の願いが、天に通じたのかは分からない。
けれど、それは起こった。
急に、不意に、突然に。
尤もそれは「押す」といった優しいものではなかったが。


願う人が居た。願った人が、居た。それは小さなものだったけれど、強い想い。聞き届けたのは、何? 願いを叶えたのは、誰?