Nightmare×Knight
[4] Whiteout Road 3
終わる世界?始まりの地?――それはひたすらに白亜。
白い世界、雪の中。
真白の中で、唯一の色がある。
赤と、青。
ククールと、俺。
俺たちは運悪く雪崩に巻き込まれ、そして――何の因果か、こうして二人きりとなってしまった。
ゼシカは、ヤンガスは、姫は、王は。
皆は無事でいるだろうか――と、色々なことを考えないといけないのに。
いつの間にか繋がれた手を見ながら、俺が考えるのは、少し前を行く人のこと。
あの瞬間、どうしてか俺は咄嗟に差し伸べられた腕を掴んだ。
あんなにもぎこちなかったのに、あの時だけは何も考えず腕の中へ飛び込んだ。
関係がおかしくなる前のそれと同じようだったので、思わず泣きそうになったほどに。
……多分、泣いてはいないだろうと思うのだが。
けれど、幸いにもククールは何も聞いてこなかったので助かった。知らないふりをしてくれてくれているのかもしれない。……少しだけ、申し訳なくなったけれど。
そんな雪崩の後、ククールはドコか寒さを凌げる場所に一時避難しようと言い、俺の手を捕って歩き出した。何故か、わざわざ自分の手袋を外して。
この寒さのせいか、ククールの手はいつもより少し冷たいけれど。
でも、心地よくて――酷く安心できて、俺は泣きたくなった。
手を離して欲しいのに――離せない。
周り全部が白亜で、他の存在が感じられない地。
このまま、世界が壊れてしまえばいいと思う。
「なぁ、エイト。……寒くないか?」
突然、前方から声が掛かった。
「えっ……。」
突然の質問に、俺は声を上げてしまった。
他に何か言い返せば良いのに、俺はどうしてか酷く狼狽してしまい、馬鹿みたいに言葉を探して返答に詰まってしまった。
するとククールが苦笑したのが見えた。そんな顔は久しぶりだった。
「……いいさ。言ってみただけだ。何てこと無い、気にすんな。」
そう言って、また歩き出した。
もう俺は、世界が壊れてしまえばいいなどとは思わなかった。
今、この時のままで居たいと、思ってしまったから。
このまま刻が止まってしまえば良い、と――。
そんな時だった。
前方の斜面の陰に洞穴らしきものがあるのを発見したのは。
「あっ! ククール、あそこ、ほら――洞穴がある!」
思わずククールの手を引っ張り、声を上げて振り返ると、彼の微笑と視線にぶつかった。
ククールがくつくつと笑いながら、言う。
「ああ……良かったな、エイト」
そんな表情と声を見て聞くのは、いつ振りだろう。
気を抜くと、そのまま泣き出してしまいそうだったので、唇を噛んで堪えた。
ククールが訝しんだ表情でこちらを見ていたので、思わず顔ごと背けた。
泣いてどうするんだよ。こんなところで泣いても、どうしようも無いのに。
……困らせるだけなのに。
涙を拭う。相手に気づかれぬように。
顔を上げたところで、洞穴に着いた事に気づく。
そこで俺たちは、とりあえず休むことにした。
――空の色が濃くなり、雪の降る量が増えたような気がした。