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Nightmare×Knight

[4] Whiteout Road 6

風が無く、雪が降る。身を寄せたのは静寂の空間。



繋いだ手、離さないまま――離せないまま、洞窟の中へ身を寄せる。
風の吹き込んでこない奥に行き、そして地面に座り込む。

不自然に、少しばかりの間隔を空けて。

互いに視線を交わし、逸らし、また交わしては、逸らして。
それを繰り返し。

後は、沈黙。

聞こえるのは、雪の降る音。
雪が雪に落ちていく音。
それと、互いの声無き声。


◇  ◇  ◇


(あいつ……大丈夫なのか?)
そんな事を心中で呟き、隣に座るエイトをそっと横目で窺った。
見れば寒さに弱い相手は案の定、凍えたように身を竦めて震えている。
ククールは手を伸ばそうとするも躊躇し、首を振り、結局は何もせずに目を閉じた。
そうして視界を閉じても、隣の存在がより明確になり、どうにも気になって仕方ない。

この洞窟に近づくにつれ、言葉は減り、気づけば会話は途絶えてしまい、こうして二人とも沈黙したままになってしまった。
側に寄って、触れたいのに……行動に移せない。
前はどうやって会話をしていたんだろう――と考えるも、どうにもよく思い出せない。

(方法を思い出すようになっちまったら、ダメだな。)
ククールは目を閉じたまま、眉を寄せる。
前は、思いのままに行動して、話して、触れて、側に居た。
思いのままに――想いのままに、行動していた。

(――想い、か。)
今でも未だ、想っている。
出会ってから今まで、ずっとそのまま抱き続けている。

なのに――この気持ちはもう、どうしようもないのか?

今度はもう、きっと受け止めてはもらえない。それは、自分の咎。
行動を間違えてしまった、自分の罪。
けれどどうしても諦め切れなくて、ずっと渦巻いている。

(諦めきれるものか。俺は、やっぱり……あいつが――。)

外から吹き込んだ風が髪を揺らした。
ふと目を開けると、隣のエイトがより身を縮込ませて震えるのが見える。
ククールは両手を握り締め、何か言いかけ、……止めた。

静かな空間の中、見つめるのは唯一人だけ。
想うのも、考えるのもその視線の先の一人だけ。

――今は、側に寄りたくて……何よりも、触れたくて。


◇  ◇  ◇


先刻から、隣の微かな震えが気にかかっていた。
気になって気になって仕方ない――が、声をかけるのには勇気が要る。
でももう、それも限界だ。何故なら、エイトの肌がどんどん青褪めていくのが見えたから。

「エイト――」
意を決して声をかけると、エイトは顔を上げてこちらに視線を向けた。
多分、俺はこの時、もの凄い形相でもしていたんだろう。
視線が合ったエイトの顔に、怯えの影が走るのが見えた。

「――っ。な、なに……?」
エイトが眉を寄せたまま、後ろに身を引いた。
恐らく、あのトチ狂った夜が続いた日のことを思い出したんだろう。
怯えないでくれ、とは言えない。
俺がその悪夢を刻み込んでしまったんだから。
なので、俺はまず、表情に苦笑交じりだが、どうにか微笑を浮かべることから始めた。

「……そんな顔、すんなよ。もう、何もしないからさ。」
そして、これ以上怯えさせない為に、立ち上がるのは止め、身を屈める様にした姿勢でエイトの方へと近づくことにした。視線を合わせ、ゆっくりと。
「お前さ、寒さに弱かっただろ? ……だから、せめてさ。」
言葉と声音を選びながら慎重に直ぐ側まで近づくと、マントを広げて。

エイトの身体ごと、抱きしめた。

「――っ!」
俺の腕の中で、エイトが息を飲むのが伝わった。
怯えないでくれ。……もう、何も酷いことはしないから。
しかし、それも僅かな間だった。
温かさに気を許したのかエイトの震えはすぐに治まり、強張りが少しずつ和らいでいった。
俺はもう、それだけで充分だった。
久し振りに、その身体に触れて、触れ合って。
つい抱きしめる手に力が篭もりそうになったが、何とか堪える。堪えないと。
「……嫌でも、少しだけ我慢してくれよ。お前が凍えてる姿を見るのは、忍びなくてさ。」
そんなことを言いながら、本当に嫌がられたら……と考えると、酷く気が沈んだ。

けれど、そんな時だった。
――不意にエイトが目を閉じて、俺に寄り掛かってきたのは。

(……エイト? お前……)
なあ、気を抜くなよ。
そんな顔をして、俺に身体を預けないでくれ。
自惚れそうになる。
俺は、もうお前に触れられないと思った。触れてもらえないと思っていた。
けれど、お前は今こうして俺の腕の中に居て。
しがみ付くように腕を回していて。

お前に赦されるなら、俺は、ずっとお前を抱きしめてやる。
離したくない、離れたくない。
俺は……もう、お前を傷付けはしない、から……。

だから、どうか――どうか、もう少しだけこのままで。


沈黙の空間、会話を交わさずそのままに。凍える心を抱きながら、今でもその想いを呼ぶ。諦めることなど出来ずそれに触れながら、相手の心が聞きたくて。