雪国のAlcohol Trap
・1・
それは、まだ春の足音も遠く、防寒着を身につけていても非常に寒く感じる季節が続いたある日のことだった。
その日のエイトは兵士としての仕事で、遠方に足を運んでいた。
行き先は、雪国オークニス。
しかしその地に足を踏み入れてからのエイトはどことなく覇気が無く、また本人は気づいていないのか、始終その眉間に皺が寄りっぱなしであった。
常日頃のエイトを思えば考えられない態度だったが、これには少しばかり、理由がある。
それは――……。
「――寒い……っ!」
もう何度説明したか分からないが、エイトはいつまで経っても寒冷に対しては非常に弱く、このように苦手意識を引き摺ったままでいる。
様々な地方へ赴き、守護や警備を手伝ったりしているが、北国だけは自ら出向くことはそうない。
エイトの名誉の為に補足させてもらうと、その他に対しては大変に優秀なのだ。
乗馬も料理も戦いの腕も見事であり、それこそ一介の兵士にしておくのは勿体無い、とあちこちから勧誘がある程には。(特にマルチェロが引き抜きに顕著だが。)
なので、世界が安定してからは、あちこちから召喚状が届いたりする毎日であったりするのだが、エイトはそれらの勧誘を断り、報酬には目もくれず、今でもトロデーンに仕えている。
忠義心が高い、と言えばそれまでだが――実のところ、”ここが一番暖かい土地だから”というのも理由の一つであるとかないとか。
それはともかく、現在。
エイトは手を擦りながら、憂鬱な影を背負いつつ、オークニスの町中を歩いていた。
これも任務の為、これは仕事なのだから、とひたすら自分に言い聞かせながら、黙々と。
その姿はまるで雪に埋もれる子兎のようだった――とは、通りすがりの商人の談。
今回の話には全く関係ないが。
「では、これとこれと――あと、この毛織物も一式、お願いします。」
「はいどうも。まいど有難うございます。」
人と何か話す度に、白い息が零れる。
その際に相手の返事より早くに返ってくるのが冷えた息なものだから、会話を多く重ねていると、まるで雪を飲み込んでいるような気分になってくる。
(寒い……。)
早く帰りたかった。
だが元来の生真面目な性分(ククール曰く”仕事馬鹿”とも言われたりする)が、途中で放棄することを許さなかった。
自分が引き受けた以上は、責任を持って最後までやり遂げる――表現上は格好が良いが、エイト自身からしてみれば、そのような性分はただ歯痒いだけ。
自分で自分の首を絞めているような気分を覚えながらも、エイトは己に課せられた任務を続けることにした。