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SEASONS [K] *Dec.1

聖誕祭



「……おい。」
「♪~」
「…………おい。」
「――何だよ。どうした?」
「……どうした?じゃ無いだろ。何してんだよ。」
「何って。見て分かんねぇ?」

その時、俺は城の大台所でケーキを作っていた。
そこに、するりと背後から忍び寄ってきたククールに抱きつかれ(とは言っても俺は気づいていたが)、作業を中断されてしまったのだ。
少々のじゃれ合いならば許せたのだが、しかしククールは尚もぎゅうと抱きついたままで、なかなか離れようとしない。
流石にこれで料理をするのは危険すぎると判断した俺は、作業の手を止めると、肩越しに奴の方を振り向いて言い放った。

「邪魔だ、離れろ。」
「何で?良いじゃねぇか、このままでも。」
「阿呆、良いわけあるか!大体、お前が食いたい食いたいって散々、駄々をこねたから、俺がこうして作ってやってるんだぞ、ケーキを!」
「ん、感謝してる。」
「……そう思うんなら、離れろ。」
「い・や。」
いちいち語尾にハートマークをつけてそうな声音と笑みに、我慢の限界点が臨界に達した。

「いい加減にしないと殴る――……んぐっ!?」
それでも離れようとしないククールに、焦れた俺が大きな声で怒鳴りつけようとしたその怒りを塞いだのは、一つの物体だった。
それは、ケーキの飾りに、と俺が用意しておいたレッドベリー。
しかも、俺がたった今こいつの為に作ってやっているケーキに乗せたばかりのやつを、もぎ取って、だ。
(……こ、こいつ!)
「ん……んぅ!」
唇にそれを押し付けられた為に俺は喋れず、その代わりに「何の真似だ!」と怒りを込めて睨みつてやれば、ククールは少し眉を寄せて笑う。
「いや、な。俺も初めは邪魔する気無かったんだけどよ……その……お前が、妙にケーキ作りに夢中になってるから。」

そうだ。お前が食べたいって言うから、俺はこうして一生懸命作ってるんだ!
夢中になってるのは、美味しいやつをお前に食べて欲しいから――……!
だから。
それなのに。
色々なことを言い返してやろうとしたその矢先、まるで俺の心を読んだかのようにククールは笑って、こう言った。

「俺の為に、お前が一生懸命になってくれてるのが、嬉しくなっちまってさ……。それが、凄ぇ愛しくて……抱き締めたく、なった。」
「……。」
そう言って、照れたように、嬉しそうに。
……子供のような顔をして微笑むんだ、こいつは。
くそぅ、反則だぞ。
格好良くて、女性に人気があって、冷めたような目をしてクールぶってるくせに、実のところはこうして甘えたがる人間だってところが……反則だ。

「……阿呆め……。」
レッドベリーを咀嚼しながら、俺は呟いた。
そうだ、そうなんだ。
こんなやつにまんまとハマっている俺も、立派な阿呆の仲間なんだ。
自己嫌悪めいた感情を処理する為に動きを止めた俺に構わず、ククールが言葉を繋ぐ。
「俺の下らねえワガママ聞いてくれて、サンキューな。……そういうとこ、好き。ほんと、凄く――愛してる。」
「――っ。」
低く耳元で囁く甘いそれも、色っぽくて俺をゾクゾクさせるから、反則。

「……な。エイトからは……言ってくれねぇの?」
「……。」
「――言って、エイト?」
優しい声と、哀しそうに眼で聞いてくるその表情のアンバランスさに、胸が締め付けられる。
言わなくても分かっているくせに、それでもククールは度々、俺に言わせようとする。
――不安なのか?
それが生い立ちに起因しているのは知ってるが、そんな途方に暮れたような顔で見つめられると、困る。

疑うな。恐れるな。
俺が側に居るから。
……ずっと、居てやるから。
お前が俺を選んでくれたように、俺もまたお前を選んだんだから。
だから、もう少し自信を持っても良いんだぞ?
だから、背後から胸の前に回されたククールの手に自分の手を重ねて、俺は言ってやる。
「俺も愛してる。お前に負けないくらい、俺だって想ってるんだからな。」
「……うん。……サンキュー、な。」
ククールが俺の首元に顔を埋め、鼻先を擦り付ける。安心したのだろう、甘える姿はまるで子犬のようだ。
その頭を撫でてやってから、俺は再び泡立て器を取り上げた。
さて。ククールを宥め終えたのだから、俺は俺の仕事を再開させよう。

「なあ……もう良いよな?離れて、向こうで待ってろよ。直ぐに作って持って行ってやるから。」
「……。」
「……?ククール?おい、聞いてるの、か……っ――!?」
不意に、生暖かいものが首筋を伝い始めた。
それは紛うことなき舌の感触。

……待て。
ちょっと、待て。

「おい……っ、お前、何を……」
「あー……何か、嬉しすぎて我慢できなくなった……悪ぃ。」
「いや、謝ってくれなくて良いから、離れろ。」
「――ごめん。我慢……きかなくなった。」
「お前――……」
「食欲は後回しにして、さ……別の方、満たさせてくんねぇ……?」
「ふっ……ふざけんなぁっ!」
甘い顔を見せた俺が馬鹿だった。
こいつが獣なのを忘れていた。
けれども、振り上げた俺の腕は容易く受け止められ、俺の抗議はそのまま強引な口付けに簡単に飲み込まれてしまって。

――翌朝。
くたくたになった身体を引きずり、作りかけのケーキの前で立ち尽くしながら、俺は大きく溜息を吐いた。そして満身創痍になりながらも、結局はククールの為にケーキを作り上げてしまう自分の甘さに、頭を抱えたのだった。

俺は、ククール以上に馬鹿かも知れない……。

Merry Christmas!