Drago di Isolamento
03. 無罪、冤罪……断罪!?
俺たちっ!
人助けをしたのにっ!
――何で連行されなきゃなんないんですかああっ!
……はぁ、ゼイゼイ、……はぁはぁ……。
し、しんどい……。ここまで全力疾走(途中、障害アリ)してきたから、息が……みゃ、脈が……。
◇ ◇ ◇
マイエラ修道院。その地下尋問室にて。
俺たちは、ただいま絶賛抗議討論中だった。
こんな事態に陥った発端――というか、原因?――は、そもそもククールが俺たちに「とある人の様子伺い」を(強制的に)頼んできた事にある。
けれども俺は、人に頼られるのが嬉しかったこともあり、一先ず言われたとおりに、その人――オディロ院長の居る場所へと赴いたのだ。
そこでドルマゲスと遭遇したが、何とか無事に撃退させることが出来た。そこにはオディロ院長の強力な協力(いやシャレではなく)があり、俺たちとしても助かったので互いにお礼を言い合ったりなんかしてほのぼのしていたのだが――そこまでだった。
俺たちはココの一番偉い人の命を守ったというのに、感謝されるどころか後から遅れてやってきた聖堂騎士の皆さんに拘束されてしまったのだ!
有無を言わさず、強制的に――罪人のように引き立てられて歩かされている時なんかは、思わず現実逃避したくなったくらいだ。
しかも、殺人未遂の容疑を掛けられる、という嬉しくないオマケが付いてきた。
これには、さすがに泣きたかった。いや既に、この薄暗い地下室へと連れてこられた時から俺は泣いてたんだけどな。心の中で、だけどさ。
ああ……それにしても、この尋問だか何だかはいつ終わるんだろう?
俺は、円卓で頑張っているゼシカとヤンガスを一瞥して、さっきからちっとも進展していない(ように見える)状況を確認すると、邪魔にならないよう俯いて自分の殻に戻った。
座りっぱなしって、結構辛いんだよなぁ……。
はぁ。心の中で泣いたせいか喉が渇いてきた。……でも、頼める雰囲気じゃないしなぁ……というか、厳つい顔をした聖堂騎士の皆さんが俺をチラチラ見ているような気がする、のは……勘違いだと良いんだけどなぁ。
はぁ……。
こんな時、きびきびと行動出来たらいんだけど、生憎と俺は依然として口下手で対人恐怖症のままだから、大人しくしていることしか出来ない。
出来て、応援くらいか。
しかし情けないことにそれは声や態度で示すものではなく、目の前でゼシカとヤンガスが青い服を着た男――マルチェロだっけ?――に、噛み付くように怒鳴っているのを”心の中”で応援するだけなのだ。
ああ本当に、格好悪い。傍から見ても、俺はきっと情けないリーダーだ。
自分で自分が嫌になる。役に立てないし……格好悪いし無愛想だし会話技術ゼロだし。うう、しくしくしく。再確認して悲しくなってきた。
リーダーなのだから、ここで毅然と相手を見つめ、机の一つでもバン!と叩いて、「意義あり!」とか何とか格好よく出来るなら、せめて救いがあるんだけど。
試しに、ちょっと想像してみよう。
えーと……机を、叩いて――。
……。
……。
……。
だめだ。数秒で俺が訴え返される状態に展開してしまった。
しかも、そのままギロチン一直線コースとか思い切り救いの無い結末になっちゃったよ!
しくしくしく。こんな時まで、俺の思考は俺自身を追い詰めてくるのか。
――などと、俺が自分の不甲斐無さを(心の中で)慟哭している時だった。
王が乱入(?)してきた為に、事態はより一層慌しく混乱し――混沌と化し、それこそ弁解不能の状態に至るのに時間は掛からなかった。というか、しっちゃかめっちゃかになった!
……ああ、もう。最悪だ。
俺の未来はここで終わるのかと、底辺限界まで落ち込みかけた時だった。
ふと、何かを聞いた気がした。
俺は意識を浮上させた。
それは、俺の対面に座っている場所から発せられた言葉だったように思う――ええと、マルチェロだっけ?(確認二回目)いま何かもの凄いこと言わなかったか?
はっきりと確認する為に伏せていた顔を上げれば、俺と視線が合うなりマルチェロは笑いながら、その言葉を復唱してくれた。
――「拷問して、処刑する」――と。
な、……ちょっと待て!
ご、拷問!? 処刑!?
なに言ってんの! なんてことを言ってんの!?
字面が物凄いことを、笑いながら言いましたか貴方!? 拷問の意味、分かってる!?
えーと、意味は確か……、――エイト辞書出動っ!
ぱらぱらぱら。
【拷問】対象を肉体的・精神的に痛めつける事により、自白を強要する行為。
……おぅ。
意外とあっさりした説明文だな、おい。何、俺の脳内辞書までマルチェロ側?
何かもう、全部が俺の敵って感じ? あああ膝から泣き崩れそう……って、一人で感傷入ってる場合か。俺の馬鹿!
とーにーかーく。
無実だ、冤罪だっ!って言ってんのに、この野郎。
まだ、ほくそ笑むか。冷笑が似合いすぎてて思わず見蕩れちゃったじゃないか……って、いや俺個人の感想はどうでもいい!
よし、決めた。
こうなったら直訴してやろう!俺だって本気を出せば出来るんだからな。
――名付けて!
――「目は口ほどにものを言い」作・戦っ!
……。
……。
……うん、ごめん。すみませんごめんなさい。これで勘弁して下さい。情けないリーダーで、ほんと、ごめんなさい。ですが考えた結果、これが精一杯です俺。口下手にはハードルが高すぎました。
と、ともかく!
俺は気を引き締めて、きゅっと唇を結ぶと、思い切ってマルチェロを見返すことに決めた。
真正面から――でも焦点は合わせられず、ぼかした状態で――相手を睨み、心の中でひたすら無罪を主張した念を飛ばすのだ。……うん。説明すると、まるきり馬鹿みたいな行動だとは、自覚しているよ?
で、でも! 何事もやってみないとわからないわけだし!
そういうわけで、俺は根性と気合で、精神が続く限り、ひたすらマルチェロを見つめた。
とは言っても、それは五分も持たなかったが。
俺のなけなしの根性が焼き切れかけた時、先に視線を逸らしたのは、ありがたいことにマルチェロのほうだった。
それに合わせて、俺も目を伏せる。
あーー……疲れた。
しかし、これで誤解が解けたわけじゃなく、結局俺たちはそのまま地下牢へと放り込まれてしまう。
皆、役に立てなくてごめん――俺は薄暗い牢の中で、皆に向かって土下座していた。無論、これも心の中で、なんだけども。
ああ……俺たちの旅もここで終わりか?
いや、俺はともかく、皆は絶対に助けてみせる!
ぎゅっと両手を握り締め、そんな決意を心の中でひしと固めた――のだった、が。
この後で、まさかあんな”ドンデン返し”が起ころうとは思いもよらなかった。
そして、それには少しばかり後味の悪い展開が付いてきて、手放しで喜ぶことは出来なかったのだが多くは語るまい。
……うん。悲しすぎて、語れそうにない、です。
あのお爺さん、優しそうな人だったのに……。