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Drago di Isolamento -side:K-

04B. 麗しの不可侵食



氷の女神……いや、もう名前で呼んでもいいか。エイト、だったよな。
俺は晴れて――とはいっても明るい門出じゃなかったが――こいつらの仲間になった。
そんな過程はさておいて、俺は未だにコイツ――エイトに、気軽に話しかけられない状態が続いていた。

距離を置いている。
いや、置かれているといったほうが正しいか。
なにせ、俺が隣に立つ度に浴びせられるのが、凍てついた空気と殺気めいた気配だからだ。
仲間になったというのにその冷ややかさは相変わらずなものだから、流石に少し苦笑させられる。
しかも、どうやらこの冷気は俺に対してだけのもので、他の仲間には向けられていないらしい。

『まだ真に”仲間”と認めたわけじゃない。』――と。
言葉ではなく視線で。素っ気無い態度で。
警戒よろしく纏う冷たい雰囲気で、感じさせられるのは真意。
敵意と侮蔑が混じった瞳。
それが、鞭のように一閃して俺を一瞥する。
しなやかな、けれど鋭い一撃で打ち据える。近づくな、というように。

そうなのだ。こいつは未だに、「一瞥」しか俺に意識を向けてくれないのだ。
それは、徹底した「隔絶」でもあり、まさに――「氷の洗礼」。
一分の隙も許さず、距離を置いて。けれど、戦闘に入ると的確な指示を投げてはコチラと向こうの立場を示してくる。
仲間だと認めてもらえるのに掛かる時間は、どれ程なのか。
微かな戦慄、けれども、無性に惹かれる興味がそこにあるので俺はアイツから離れることが出来ない。躾にも似た罠は、実に上手く出来ていた。

この矛盾する感情は、なんなのだろう。
魂ごと鷲掴みにされる、慮化効果。
強い麻薬のような、甘い媚薬のような。
眩暈がするほどの、感情の起伏の変動。
形は光の様に煌き、透き通るほど高潔なのに対し、その中身は闇のように深く、凍る様に冷徹でいて。

光と闇。
そんな、互いに相反するものを同時に持った存在を誰が無視することなど出来ようか。
人の目を――いや意識ごと、惹きつける。完全に、確実に。絶対的な存在感で以って。
あいつは知っているのか?
自分の姿の高さを。
自分の存在の深さを。
それ自体が、毒のように侵食する虜化効果を持っているのを。

触れれば堕ちるだろう。
確実に落とされる。――それでも構わない。
しかし、そう簡単に触れることの出来るものではなくて。

触れたいのに、叶わない。
――すぐ側にあるというのに。

『不可侵の、女神』
そんな言葉が思わず浮かんだ。あまりの的確さに自分でも苦笑する。
絶対的な威圧感。
孤高の龍。

でも、な。
俺は、お前に近づきたくて、仲間になったんだ。
こうして、敵意を受けるのを好んで仲間になったわけじゃない。

だから、さ。
もう少し……ほんの、少しでいいから。
その氷、溶かしてくんねえかな。
俺、お前に触りたいんだぜ?
声も、もっと聞きたいんだぜ?

なあ、判ってる?
――女神サマ?