Drago di Isolamento
09. まさかの逆夢?
てくてくと道を歩く。
坂道じゃなくて良かった。本当に良かった。――そんなことを考えながら、俺はひたすら歩き続けていた。
というか、何かを考えていないと寂しくてしょうがなかったのだ。久し振りの独りきりが、こんなに辛いものとは思わなかった。
俺はそれで、俺の中で仲間というものの存在の大きさと大切さを、改めて実感する。
やっぱ、寂しいよな。
周りの音といえば、風や木々が揺れるといった自然のものばかり。仲間の話し声が無いと、ほんと、寂しい。
ゼシカの笑い声とか、ヤンガスの故郷語りとか、王の教訓とか、姫の同調とか。
……ククールの、ジョークとか。
……はぁ。
何か一気に足が重くなった気がする。それと、気のせいか――ここで俺は身じろぎする――背中が、どうもチクチクするんだけど。
気になって後ろを振り返って見るも、何もない。誰も居ない。
モンスターかな、とも思ったけど、敵意は無い。
誰も、居ない……筈なんだけど、じゃあこのチクチクは何なんだ?
自信過剰?とかいうやつか?
例えば、俺に密かな恋心でも抱いたお嬢さん(ククール的表現)がいるとか!
……はははー。
自分で言ってて虚無感しかない!
ま、それはそうと。
うう、まだチクチクするよ背中。もしかしたら疲れてるのかな、俺。
そういえば最近、眠れてなかったっけ。
空を見上げる。
日の高さからして、お昼ちょっと過ぎた辺りか。
目的地まではあと少し。
……ちょっと寝ようかな。
と、木陰をちらり。日差しと日陰が半々の、ベスト樹木がそこにあった。
俺の足は、ふらりふらりと、その場所へ。
ちょっとだけ。
ちょっとだけだから。
寝不足顔で訪問するのもマズイだろう、し……。
――などと色んな言い訳をしながら、俺はその場所へ腰を下ろしたのだった。
◇ ◇ ◇
夢を見た。
仲間が笑ってて、その輪の中にいる俺も笑っている夢だ。
何だか知らないが、俺は誰かの肩を抱いたり、小突いたり小突かれたり、時にはがっしり握手とかしたりしていて、見事に会話に参加出来ていた。
一体何を話してるんだろう。
夢の中の俺はすごく上手に笑えていたし、皆の中に溶け込めていて、違和感なんかどこにも無い。
――いいな、と思った。
そこは俺の夢で、そこに居る俺は夢の産物だって分かってるのに。
なのに俺は、嬉しかった。
涙が出るくらいに。
きっと叶いっこない夢だと解ってるから、解っていたから嬉しくて――そして、悲しかった。
◇ ◇ ◇
寝起きは最悪だった。
眠気はとれたが、心持ち、気分が重くなっている気がするのは、絶対今の夢が原因だとしか考えられない。
しかも、例のチクチクはまだチクチクするままだ。
……念の為に周囲を見回したが、やっぱりさっぱり何も居ない。そのせいか、いつも以上に何だかボーっとするので、意識が完全に覚醒するまでそのままでいることにした。
あー……幸せだったんだけどなぁ。
夢の中では。寝覚めた現実は俺一人きりで、辺りはしんと静まり返っているけれど。
ここまで夢と正反対でなくてもいいだろう、ってくらいの現実を目の当たりにして、俺はますます憂鬱になってきた。
――って、落ち込んでどうするんだよ!
ここで俺は本来の目的を思い出した。
仲間の為に、こうして出掛けてきたのだ。
空はまだ、暮れていない。
よし、行くか!
俺は立ち上がると、前方に向かって歩き出す。
そうだ、地図を持って帰るんだ。それを手に皆を格好よく率先したら、俺はきっとリーダーっぽく見えるかもしれない。
頼りになるって、思ってくれる。
『スゴイよエイト! さっすがあたしたちのリーダー!』
『エイト兄貴! 俺、兄貴に惚れやした! これからも宜しく頼みヤス!』
『うむ、流石じゃな。エイト、お主はトロデーンの鑑! これからも頼むぞ、兵士長!』
なんて言ってもらって、もしかしたら会話も増える……かも。
そうだ、ククールだって。
『やるじゃねぇか。……見直したぜ、エイト。』
俺も、笑えるようになるかもしれない。
夢で見た光景のように。皆の談笑の輪の中心にいて、不自然じゃなく溶け込めている――そんな夢が、現実になるかもしれない。
……。
……あ、ヤバイ。本当に泣きそうだ。
慌てて目元を押さえてみたが、何のことは無い。涙なんて出ているわけも無かった。
俺は、泣けない。そして、笑うことも出来ない。
でも――これからは、違う。
辿り着いた建物の前に立ち、俺はそれを見上げた。
ここに地図がある。
俺の夢を現実に叶えてくれるであろうアイテムのある場所。
エイトは気持ちを引き締めると、その夢の場所――じゃない、マイエラ修道院に向かって、悠然と歩みを進めるのだった……!
……って。今の俺、なんか格好良くなかった?